岸博幸のクリエイティブ国富論

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【第41回】 2009年05月29日

タイムワーナーがCATVに続きAOLも分離へ
メディア・コングロマリットは死んだのか?

 ディズニーがHuluに参加した誘因は、広告収入です。ネット上の広告単価が継続的に下落する中、例えば動画投稿サイトのYouTubeは未だに赤字が続き、黒字化の目処が立っていません。それに対し、Huluはアクセス数ではYouTubeにかわないものの、広告単価では圧倒的に上回っているのです。

 ネットは過去10年の間にオープン化が急速に進みました。最初の頃は、AOLや日本のニフティに代表されるように、ネット上で囲われた自社ブランドのスペースでコンテンツを提供して会員数を増やすのがメインでした。しかし、ネットの常時接続の普及とコンテンツ提供サイトの増大により、そうした囲い込み戦略は意味がなくなり、オープン化が当たり前となりました。AOLの没落がそれを象徴しています。

 そうした中で、四大ネットワーク局のうち三局が、同一ブランドのサイトから番組を提供するようになったのです。これは、高い広告単価を誘因とした新たな囲い込み戦略と理解できるのではないでしょうか。

メディア・コングロマリットの今後

 タイムワーナーという米国を代表するメディア・コングロマリットは、制作と流通の垂直統合を捨て、コンテンツ企業へと変貌しました。Foxを持つニューズ・コーポレーションとNBCを持つゼネラルエレクトリック(GE)というメディア・コングロマリットは、垂直統合を維持したままネット上での囲い込みを始めました。

 こうした動きは、ネットが流通経路の独占を破壊したことに対応して、メディア・コングロマリットがビジネスモデルを超えて組織のあり方までも進化させ始めた、と理解できるのではないでしょうか。

 このように、クリエイティブ産業を担う企業はどんどん進化しなければならないのです。日本では、“百年に一度の経済危機”という言い訳をしながらあらゆる産業と企業が政府支援に甘えていますが、悪い時期に基礎体力を強化しないツケは景気回復段階で必ず還ってきます。せめてクリエイティブ産業は、ネットや不景気を言い訳に政府に甘えないことを期待したいです。

関連キーワード:アメリカ インターネット メディア

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執筆者プロフィル

写真:岸 博幸

岸 博幸
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。

この連載について

メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。