【第6回】 2008年09月12日
雑誌休刊ラッシュが示すマスメディア生死の分かれ道
初期の段階では前者の効果が大きかったのが、最近になって後者の効果も大きくなっているように思えます。この1年ほどで、広告収入に依存する割合が大きいテレビ局や新聞社の収益が急速に悪化しだしているからです。音楽、雑誌から始まったデジタルとインターネットの浸食がついにマスメディアの本丸に及びつつある、と考えるべきかもしれません。
石炭産業にならないためには
どうしたらいいのか?
それでは、インターネットと携帯が今後一層便利になる(どこでもつながるのが当たり前、ブロードバンド化で映像がコンテンツの中心になる)に従い、マスメディアはどうなっていくでしょうか。市場規模が縮小の一途を辿り、かつての石炭産業のように衰退産業への道を歩むのでしょうか。
間違いなく言えることとして、テレビ、新聞、雑誌といったマスメディアがなくなることなどあり得ません。マスメディアには、インターネットや携帯に代替できない独自の利便性があるからです。しかし同時に、マスメディアがアナログ時代のビジネスモデル(テレビは電波で、新聞や雑誌は紙で)に拘泥し続けたら、継続的な市場規模の縮小は免れないことも事実です。
それは何故でしょうか。個人的には二つの要素があると思っています。第一に、デジタルとインターネットにより、マスメディアのコアコンピタンスに変化が生じました。マスメディアのビジネスモデルは基本的に幾つかのコアコンピタンス(情報収集、編集、印刷、流通など)を束ねたものですが、その中でも、アナログ時代は流通部分の独占性が最も重要なコアコンピタンスでした。全国に紙を配る、電波で全国に番組を送るという流通部分には、巨額の投資や電波利権といった参入障壁が築かれ、新規参入は事実上不可能でした。この流通部分のコアコンピタンスが、インターネットという新たな流通経路の出現により崩れたのです。
第二に、ユーザの情報消費のスタイルも、インターネットや携帯で変わりました。アナログ時代はマスメディアの情報を受動的に消費するだけでしたが、今や若い人にとっては、検索で自分が関心ある情報だけを探す、場所や時間に関係なく自分の都合に合わせてコンテンツを楽しむ、というのが当たり前になっています。また、web2.0により、ユーザは情報のコミュニティに属することの快適さも知りました。その結果、若い人の情報消費のスタイルとマスメディアの旧来型ビジネスモデルの間に齟齬が生じるようになったのです。
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岸 博幸
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。
メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。