あの人は今こうしている　香取環さん（“ピンクの女王”と呼ばれた）

　１９６２年は浦山桐郎監督の「キューポラのある街」がヒットした年。同時に独立プロ系のピンク映画が登場した年でもある。その第１号が小林悟監督の「肉体の市場」。この映画で体当たり演技を披露し、“ピンクの女王”と呼ばれたのが香取環さんだ。団塊の世代には懐かしい香取さん、今どうしているのか。

●「５０のときに労務や衛生管理など５つの国家資格を取得しました」

「今回はトークイベントに出席するために上京しました。私が出演した映画が４本上映され、それにあわせたイベントなんです。出席しないわけにはいきません」

　ＪＲ阿佐ケ谷駅に近い映画館「ラピュタ阿佐ケ谷」で会った香取さん、まずはこういった。香取さんは現在、熊本市内からクルマで阿蘇方面に約３０分の熊本県菊陽町に住んでいる。

「菊陽町は私の生まれ故郷、東京を離れてもう２０年以上になるでしょうか。東京は住むところじゃないっていうのが持論でしたから、それで女優引退とともに戻りました」

　御年７０歳ながら、今も地元の医療品メーカー「阿蘇製薬」で働いているそうだ。

「『救急バン』ってバンソウコウ、ご存じありません？　それをメーンに作ってる会社で、私の実家なんです。５０のときに労務や衛生管理など５つの国家資格を取得しましてね。以来、ずっと社員食堂の管理を任されてます。パートさんを合わせて３００人分の賄いをすべて手作りでしなくちゃならない。毎日が戦争みたいな忙しさですが、それが私の元気の源。足腰が立たなくなるまでやりますよ」

　香取さんは１８歳のときにミス・ユニバース熊本県代表に選ばれ、全国大会で準ミスに。これをきっかけに日活の第４期ニューフェースとして女優になり、赤木圭一郎、小林旭、石原裕次郎などの主演シリーズに出演した。

「でも、なかなか芽が出ず、１本５００円のチョイ役ばかり。それでも歯を食いしばってガンバってたところに、独立プロから声がかかったんです。それが小林悟監督の『肉体の市場』でした。ギャラは日活の１０倍。もちろん、ふたつ返事でＯＫしました。これで家賃が払えると胸を撫で下ろしたのを覚えてます」

　当時、成人映画と呼ばれた「肉体の市場」は、今ならさしずめ“社会派映画”といっていいだろう。六本木族と呼ばれた若者たちの生態を赤裸々に描き、強姦、レズシーンなども大胆に取り入れて大ヒット。主演の香取さんもブレークし、その後、約２００本のピンク映画に出演した。

「映画は封切り２日後にわいせつ容疑で摘発を受け、問題部分をカットして再上映した。これが話題になってヒットしたんです。引退は古巣の日活がロマンポルノ路線に乗り出したから。これで力が抜けてしまいました」

　バツ２。サラリーマンのひとり息子（３０）とふたり暮らしだ。

（日刊ゲンダイ2009年6月11日掲載）