【他球場に不向きな打線に特化】
真弓政権1年目の阪神は、ここまで24勝33敗3分でセ・リーグ5位に低迷。交流戦でも借金を4つ増やし、光明を見いだせずにいる。「ダメ虎復活」とバッシングを受ける真弓監督だが、主戦場の甲子園では得点86、失点79で12勝10敗と合格点の成績だ。ところが甲子園以外の戦いが問題で、得点131、失点143の11勝23敗と大きく負け越している。
道作氏の診断では「飛ばないボールを使うシーズンが長すぎたために、各選手が飛ばないボールへの対応に特化しすぎた状態になっているのではないか」というのだ。
阪神主催試合の使用球は那須、久保田、ゼットの3社。各球団とも使用球の詳細は極秘事項だが、ここ数年の阪神の使用球は「飛ばない」ことで定評がある。その上、広くて、特に左打者に不利といわれる名物の「浜風」が吹き抜ける甲子園が投手有利な球場なのは明白だ。
本塁打の出やすさを測る指標「パークファクター」で、甲子園は平均値の1を1991年以来30年近く下回ってきた。特に昨季の数値は異常で、セで最も本塁打が出やすい東京ドームの1.758に対し、甲子園はわずか0.358。例えば金本は昨季27本塁打だが、東京ドームが本拠地なら52本に達した計算になる。道作氏は「異常と言っていい格差。もはやスポーツのあり方として問題だ」と指摘する。
まさに甲子園は“異空間”。他球団の打者にとっては、打った瞬間は本塁打や外野の頭を越す感覚の打球が平凡な外野フライに終わる。逆に阪神バッテリーは思い切って球威で押す配球ができる。まさにJFKの投球スタイルだ。
【思い切った選手の入れ替え必須】
一方、阪神の打者は甲子園で本塁打は打てないと腹をくくり、長打を捨ててつなぎの打撃に徹する。かつて大砲と期待された浜中は阪神を去り、関本も巧打者タイプに。昨季加入した新井も本塁打が激減してしまった。
つまり今の阪神は、過剰ともいえるホームアドバンテージに対応した甲子園専用選手の集まり。甲子園での勝率が上がる一方で、より打球が飛ぶ他球場では“借りてきたネコ”に変貌。投手は甲子園なら外野フライで済む打球をスタンドまで運ばれ、打線に相手のアーチ攻勢に対抗できるだけの長打力はない。ならば甲子園でもっと勝とうと、内弁慶に拍車がかかるという悪循環にしかならない。
“飛ばないボール”はまさに麻薬。失点を減らす効果はてきめんだが、長距離砲が育たないという深刻な副作用をもたらす。そこそこの助っ人大砲では補いようがない。
かといって、急に他球団と同様の“飛ぶボール”にしたら、現状の甲子園専用選手たちが混乱するのは必至だ。「長期的な視野に立てば、目先の勝利を捨ててでも、普通のボールに対応できる選手に切り替えていくべき」と道作氏。現状を打破するには、思い切った選手の入れ替えが必須というが…。ここ数年ですっかり勝ちに慣れた阪神に、“張り子の虎”を自覚する覚悟はあるか。