大手企業が評価する“優良番組”は調査方法が参考にならない

　今年４月に発足した「優良放送番組推進会議」という団体をご存じか。トヨタ自動車、日立製作所、東京電力など大手企業３１社が独自に“優良”な番組を選ぶというものだ。テレビ業界に視聴率以外の評価基準を示し、結果的に番組の内容向上につなげるというのが会議を立ち上げた目的だという。

　表（１）は報道番組を対象に４月に実施した初回の調査。１位は「ワールドビジネスサテライト（ＷＢＳ）」（テレビ東京）で、はるかに視聴率が高い「ＮＨＫニュース７」（４位）、「報道ステーション」（１３位）よりも上だった。表（２）は５月に実施したドキュメンタリー番組が対象の調査である。

　この結果にうなずく人もいれば、合点がいかない人もいるだろう。で、最大の問題は調査方法があいまいな点ではないか。アンケートの回答者は参加企業が選定するが、サンプル抽出に統一的な基準はない。表向きは企業の社員が回答していることになっていても社員の家族や退職者も含まれていて人数なども恣意（しい）的なのが実情だ。

　龍谷大准教授の小黒純氏（ジャーナリズム論）がこう言う。

「社会調査としてデータを公表するのであれば、調査方法に透明性、客観性が確保されていることが必要かつ最低の条件です。もし、社員が親で子供に“優良”な番組を聞いたとしたら、子供は親が喜びそうな番組をあげる可能性が高いし、逆に親が誘導尋問するケースもあり得る。それで正式な社会調査といえるかどうか……」

　１８日はバラエティーを対象にした３回目の調査結果が公表される。

　恐らく、ＰＴＡが毎年発表している「子供に見せたい番組、見せたくない番組」と似たような結果になるのではないか。

　もうひとつ、推進会議は大きな矛盾を抱えている。企業が“優良”として評価する番組と、スポンサーとしてＣＭを出稿している番組に乖離（かいり）があるのだ。

　例えば、推進会議の参加企業で報道部門トップのＷＢＳにスポンサーとして名前を連ねているのは三井不動産の１社くらいで、大手メーカーや都市銀行なども入っていない。逆に参加企業ではないＳＢＩ証券がＷＢＳの大スポンサーである。

　推進会議の理想や理念はよく分かる。しかし、このままだと「ホンネと建前を使い分けている」と言われかねない。

　サラリーマンにとっては良い番組、悪い番組の参考程度にしかならないのでは。

【報道番組の上位３番組（表（１））／局名】

（１）ワールドビジネスサテライト／テレビ東京

（２）クローズアップ現代／ＮＨＫ

（３）週刊こどもニュース／ＮＨＫ

●下位３番組

（１）Ｏｈａ！４　ＮＥＷＳ　ＬＩＶＥ／日本テレビ

（２）みのもんたのサタデーずばッと／ＴＢＳ

（３）サンデースクランブル／テレビ朝日

【ドキュメンタリー番組の上位３番組（表（２））／局名】

（１）ＮＨＫスペシャル／ＮＨＫ

（２）ガイアの夜明け／テレビ東京

（３）情熱大陸／ＴＢＳ

●下位３番組

（１）夢、叶えるために…／テレビ東京

（２）テレメンタリー／テレビ朝日

（３）カラフル！世界のこどもたち／ＮＨＫ教育

（日刊ゲンダイ2009年6月18日掲載）