小林 節
西松建設の前社長が小沢一郎民主党前代表側へ違法献金をしたとして起訴された事件の初公判が19日に東京地裁で開かれ、被告人側が争わず、即日結審した。
その報道に接して、ふたつ疑問が残った。
まず、検察側は、論告で、西松から小沢側への献金は、公共工事の受注談合について小沢事務所から「天の声」を得る(これは入札妨害罪・刑法96条の3)目的で行われた、と主張した。そして、実際には西松が寄付したのに、ダミー団体の名義を使って寄付の主体を隠し(これは虚偽記入罪・政治資金規正法24条)、入札妨害の実態を隠蔽(いんぺい)したことは、いわゆる闇献金と何ら異なるところがない、とされた。その上で、西松が少なくとも4件の公共工事を高い落札率(価格)で受注したことは、納税者・国民に(不当な)負担を強いた業者と政治家の癒着を国民の目から覆い隠した、と糾弾された。
検察庁がここまで公にした以上、それは、立証できる証拠と自信があってのことだろう。しかし、小沢側は、この訴訟の当事者ではないので参加してはおらず、従って、この法廷では反論のしようもなく、即日、法廷外で弁護人を通して反論を公表した。
ここで私が疑問に思うのは、まず、検察側論告が事実として証明できるのであれば、なぜ、小沢側を、虚偽記入罪より重い入札妨害罪でも起訴しなかったのかということである。検察が糾弾しているように、入札妨害は国民に対する重大な裏切りであり、それを単なる政治資金報告書の虚偽記載という形式犯だけで撃つのは、いわば別件逮捕であろう。逆に、談合が立証できないから虚偽記載だけで撃ったのであれば、今回の西松に対する論告における談合への論及は、小沢側に対する一方的な名誉棄損ではなかろうか?
また、この事件の確たる証拠の中心が西松側の証言にあるというならば、同じく、西松と親しく、西松から多額の献金を受け続けていた自民党の大物の地元などで西松が高額の公共工事を受注していた事実はどうなるのであろうか。
それに関連して、検察審査会で不起訴不当の判断が下されたことは自然であろう。入札も公訴も、公権力の行使が公正・公平に行われなければならないという点では同じである。
いずれにせよ、小沢秘書の公判でどのような論争が展開されるのか、今から興味深い。検察による立証を見守りたい。
(慶大教授・弁護士)
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