サイゾースタッフ
パブリッシャー/揖斐憲
プロデューサー/川原崎晋裕
エディター/佐藤彰純
デザイナー/cyzo design
Webデザイナー/石丸雅己※
広告ディレクター/甲州一隆
ライター(五十音順)
竹辻倫子※/田幸和歌子※
長野辰次※/平松優子※
※=外部スタッフ
原稿料暴露、編集者との確執 いまマンガ界は崩壊寸前!?【1】
これまで本誌でも度々報じているが、売り上げ・人気ともに年々右肩下がりのマンガ業界。そういった状況に呼応するように、「マンガ家vs出版社」というタブー破りのバトルが頻発しはじめ、ついには業界そのものの崩壊が囁かれ始めている──。
* * *
2月末、『海猿』(小学館)や『ブラックジャックによろしく』(講談社)などで知られるマンガ家・佐藤秀峰が、自身の公式サイトにその半生を紹介するWebマンガを掲載した。そこには、デビューに至る経緯やアシスタント時代の想い出に加え、編集部との軋轢や、人気作家となってからもアシスタントの人件費すらペイできない程度の原稿料しか受け取っていなかったことなども克明に描かれていた。
このWebマンガによると、佐藤の出世作であり、ドラマ化、映画化までされた『海猿』、そして、累計1,000万部を売り上げ、同じくドラマ化された最大のヒット作『ブラックジャックによろしく』ともに、編集部によってセリフや登場人物名の一部が無断で書き換えられており、さらに『ブラックジャックによろしく』連載時には、編集部に勝手に監修者を立てられ、クレジットされたにもかかわらず、その内容について、さる団体から抗議を受けると、一転、責任のすべてを佐藤が負わされてしまったという。そのほか、講談社漫画賞受賞を辞退したい旨を申し出たら電話で「誰が売ってやってると思ってるんだ!?」と怒鳴られたことや、韓国語版を無断で刊行された上に、それがネットに流出したこともあったとしている。
その後、当時の連載誌である講談社の「モーニング」編集部に不信感を募らせた佐藤は、07年、ライバル誌である小学館の「ビッグコミックスピリッツ」に移籍。『新ブラックジャックによろしく』とタイトルを改めて連載を続行したことは一般紙誌でも大きく報じられたが、この4月、佐藤は、公式サイトにて「同作と『特攻の島』(芳文社)が、おそらく最後の雑誌連載作品になるだろう」という驚くべき告白をした。そして、今後は『新ブラックジャックによろしく』を雑誌掲載から1カ月のちに、公式サイトで有料配信し、同作以降の新作は、すべてネットで発表・公開していくという仰天のプランを発表している。
また、昨年5月には『金色のガッシュ!!』(小学館)の作者・雷句誠が自身のブログに寄せられた「次回作の予定は?」という質問に対して、「今後、二度と小学館と仕事をすることはない」と突如宣言。翌6月に、単行本用原稿などを紛失されたとして、同社を相手取り、330万円の損害賠償を求める裁判を起こす"事件"も発生している。
昨年11月、小学館が謝罪の上、225万円を支払うことで和解が成立し、先月末、雷句が、9月に創刊される講談社の「週刊少年マガジン」の増刊号に移籍することを発表したことで、すでに一応の決着は見ているが、当時、雷句がブログで公開した訴状には、白黒原稿1ページ1万3,000円という、およそテレビアニメ化された人気作のものとは思えない格安の原稿料まで記載されていた。そのため、この一件は、ファンやメディアはおろか、『快感♥フレーズ』(小学館)の新條まゆら、ほかのマンガ家をも巻き込んだ大論争に発展した。
「少年マガジン」(講談社)の黄金期を作り上げた内田勝による『「奇」の発想──みんな『少年マガジン』が教えてくれた』(三五館)や戦後マンガ史を支えた名マンガ編集者たちの姿を小説仕立てで描いた『マンガ編集者狂笑録』(長谷邦夫/水声社)など、ベテランマンガ家や名物編集者による回顧録などの影響もあるのか、これまでマンガ家と編集者は、単なるビジネスパートナーの域を超えて、"共同制作者"として美しい関係を築いているものと思われてきた。また、05年に廃止されるまで、国税庁が発表していた高額納税者番付の上位に人気マンガ家が数多く名を連ねていたため「売れっ子マンガ家=儲かる」というイメージこそあったが、その台所事情が我々に明かされることは、まずあり得なかった。
それだけに佐藤、雷句という押しも押されもせぬヒットメーカーが、下請けイジメにも見えかねない編集部の態度や、具体的な原稿料の金額など、これまで目に触れることのなかった内幕を暴露したのは、衝撃的な出来事だ。
はたして、今、マンガ業界に何が起きているのだろうか?
(【2】につづく/取材・文=成松哲/「サイゾー」6月号より)
よろしくされた人。
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