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【主張】イラン騒乱 弾圧は事態を悪化させる
イラン大統領選のやり直しを求める改革派支持者たちの抗議行動が収まらない。治安部隊との衝突で死傷者が増え続けている。
再選された強硬保守派のアフマディネジャド大統領を支持する最高指導者ハメネイ師は選挙の不正を否定し、抗議行動には「重大な結果となっても、責任はデモの指導者にある」と武力鎮圧を示唆する演説を行った。だが、威圧は逆効果である。さらなる弾圧は事態を悪化させるだけだと強く訴えたい。
1979年に成立したイラン・イスラム共和国は、聖職者で構成される専門家会議が国政全般にわたる決定権をもつ最高指導者を選ぶ。一方、直接選挙で選ばれる大統領は行政府の長として実務を取り仕切る。こうした特異な政治システムが、革命後30年を経て、最大の危機に直面している。
大統領選に不正があったと主張する改革派候補のムサビ氏も革命体制自体を否定しているわけではない。それどころか、革命の指導者ホメイニ師のもとで8年間、首相を務めた経歴をもち、革命体制の本流を自任している。核開発についてもアフマディネジャド大統領と同様「平和利用の権利」を主張している。
改革派が危惧(きぐ)するのは、核兵器開発疑惑などをめぐり、米欧と無用の摩擦を引き起こすアフマディネジャド大統領の強硬路線だ。大統領の出身母体である革命防衛隊が強権支配の源泉となったことへの警戒感も強い。今回の騒乱の本質は革命体制内の路線対立にあるといえる。自由の抑圧に不満が鬱積(うっせき)していることも大きい。
イラン治安当局が専門家会議の議長を務めるラフサンジャニ元大統領の親族5人を一時拘束し、多数の改革派指導者らを逮捕したことは遺憾である。元大統領は穏健保守派だが、アフマディネジャド大統領の政敵であり、ムサビ氏を支援している。
英BBC放送のテヘラン支局長が国外退去通告を受けるなど外国メディアへの圧力も目に余る。独裁国家にみられるような政敵排除と報道の自由の規制は国際社会の非難を浴びるだけだ。
イランの動向は中東和平や隣国のイラク、アフガニスタン・パキスタンの安定に重大な影響を与える。イランの不安定化は国際社会の平和を脅かしかねない。イラン自身が「対話路線」に舵(かじ)を切り、騒乱を収拾してほしい。