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社説

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セブンイレブン―捨てない仕組みをめざせ

 戦後最大の流通革命のひとつに入るのが、コンビニエンスストアの普及だ。そのビジネスモデルが、大きな転換点を迎えた。

 公正取引委員会がコンビニ最大手のセブン―イレブン・ジャパンに対して排除措置命令を出した。売れ残りそうな弁当やおにぎりを値引き販売している加盟店のオーナーに、不当な圧力をかけて値引きを妨げたというのだ。

 独占禁止法上、セブンのようなフランチャイズ・チェーンでは、個々の商品の売値の決定権は店のオーナーにある。セブンは取引上の優越的な地位を笠に着て、オーナーの権利を踏みにじった、と公取委が断じたのだ。

 値引き制限は、セブン以外の大手コンビニでも当然とされてきた。今回の改善命令は、業界の今後のあり方に大きな影響を及ぼすだろう。

 消費者の視点からこの一件を見れば、問われているのは値引き制限の背後に隠れた「定価販売と大量廃棄を前提にしたビジネスモデル」がこのままでいいのか、ということになる。

 多くのコンビニで特異な損益計算方法がまかり通っている。コンビニ本部は、加盟店の売り上げに伴う利益の一定比率を「チャージ」などと称して天引きする。売れ残り品はどうなるか。これは事実上、仕入れ原価で加盟店オーナーが買い取り、廃棄している。つまり、コンビニ本部は売れ残りのリスクや損失は負担せず、売れた品物だけから上前をはねる構図だ。

 コンビニ本部ができるだけ多くの利益を確保しようとすれば、売れ残りの危険よりも、「客が来ても欲しい品物がない」という欠品の方が重大な問題になる。そこで、常に多めの仕入れをするよう加盟店に圧力をかけ、結果的に廃棄されることを承知の上で、売れ残りを増やしても顧みない。

 加盟店の標準的な廃棄額は売上高の3%程度といわれる。心を痛めるオーナーからは、コンビニ本部が「廃棄は投資と考えよ」「人間の心は捨ててくれ」とまで言って過大な仕入れを求めた、と悲痛な声もあがる。

 24時間いつでも買い物ができる便利さを味わってきた私たち消費者は、このような暗部への認識が薄かった。だが、例えば、各店舗のレジに「当店は月間○○万円分の商品を廃棄しています」と正直に掲げて、これまで通りに商売が成り立つだろうか。

 セブンは廃棄の実態を公表すべきだ。全国1万2千店で総額いくらか、総量で何トンか、それで何人分の食事を賄えるのか、などを知りたい。社会的責任を含め、廃棄とどう向き合うかについても姿勢を示す必要がある。

 値下げ販売は、売れ残り=廃棄を減らす観点からの加盟店オーナーの有力な提案である。今度はセブンの本部が変わる番だ。

混迷イラン―改革派弾圧への深い懸念

 イランで大統領選挙の結果に抗議する市民のデモ隊を治安部隊が制圧し、死者が出る事態になった。

 選挙では現職で保守強硬派のアフマディネジャド大統領が6割以上の得票で圧勝した。対立する改革派のムサビ候補が「開票の不正」を訴え、支持者の抗議デモが全国的に広がった。

 それに対して、最高指導者のハメネイ師が「選挙に不正はない」「街頭での抗議を中止せよ」と改革派のデモを非難する演説をした。

 デモ隊と治安部隊の激しい衝突が再び起きたのは演説の翌日だ。演説が、治安部隊によるデモ抑えこみへのゴーサインになったのだろう。

 首都は厳戒態勢下にあるが、これで混乱が収拾されるとは思えない。ムサビ氏はあくまで「選挙の無効」を求める。保守穏健派のラフサンジャニ元大統領も政権に批判的だ。

 政権が革命防衛隊や傘下の志願民兵組織バシジに支えられていることには、改革派だけでなく保守派の中にも批判がある。ハメネイ師が現政権に肩入れしたことで、デモではハメネイ師を露骨に非難する声もあがった。

 事態は流動的だが、今後の推移に深い懸念を抱かざるを得ない。

 一つは、現政権が警察や軍を使って改革派を弾圧することで、さらに強権国家となることだ。国内の引き締めのために対外的な脅威を強調し、革命防衛隊主導で軍事国家の道を進むことになりかねない。国連安全保障理事会の決議を無視して続いているウラン濃縮作業が、核武装につながる可能性さえ否定できなくなるだろう。

 逆に現政権の強硬策に対する反発が激化し、イスラム体制自体が崩壊の危機に向かう別のシナリオもある。革命防衛隊の横暴に不満を持つ国軍や警察の一部が、反対派につく事態となれば、イラン革命以来の大きな混乱となりかねない。

 いずれも極端な想定かもしれない。しかし、30年前の親米パーレビ王制の崩壊も、当時はだれも予想してはいなかった。過去の革命も、政権による民主勢力の強権弾圧から始まった。

 当面は、イスラム体制の枠内で平穏に事態が収拾される可能性に望みをつなぎたい。改革派や保守穏健派が市民の支持を背景に巻き返せれば、ハメネイ師や政権を抑える一定の力となる。

 開放的で民主的なイスラム体制に脱皮していくことが、今後の安定のカギを握る。政権側は暴力による強硬策を控えるべきだ。自由な報道も保証されなければならない。

 イランの強権化や不安定化は、中東全域に悪影響を及ぼす。現政権とは距離をとる米欧や日本は、ロシアや中国など現政権寄りの主要国にも働きかけ、イランが極端な方向に進まないよう共同歩調をとることが重要だ。

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