足利事件:原因究明なき再審開始 菅家さんに笑顔なし

2009年6月23日 11時34分 更新:6月23日 13時23分

会見中、終始険しい表情を見せる菅家さん=東京・霞が関の司法記者クラブで2009年6月23日午前10時39分、梅村直承撮影
会見中、終始険しい表情を見せる菅家さん=東京・霞が関の司法記者クラブで2009年6月23日午前10時39分、梅村直承撮影
東京高裁の再審決定を受け、抗議の言葉を掲げる菅家さんの弁護団=東京・霞が関で2009年6月23日午前10時6分、梅村直承撮影
東京高裁の再審決定を受け、抗議の言葉を掲げる菅家さんの弁護団=東京・霞が関で2009年6月23日午前10時6分、梅村直承撮影

 逮捕の決め手だったDNA鑑定が、今度は再審の扉を押し開いた。足利事件で再審を開始すべきだとした23日の東京高裁決定。無罪確定に大きく前進した菅家(すがや)利和さん(62)は時折、安堵(あんど)の表情を浮かべるもののほとんど笑顔を見せなかった。冤罪(えんざい)防止のため、当時の捜査や鑑定、裁判の検証を求めたが実現しなかったからだ。「納得ができません。どうして調べてくれないのか」。無念さがにじんだ。【安高晋、銭場裕司、大場弘行】

 午前10時過ぎ、東京・霞が関の東京高裁正門前。菅家さんの弁護団は「早期幕引き 再審開始」「誤判の解明拒否」と書かれた紙を掲げた。拍手はない。「冤罪を作り出した原因を究明しなければならないのに決定は何ら立ち入らなかった。(再審公判を行う)宇都宮地裁を究明の場にしたい」。ハンドマイクで語る弁護士を支援者らが厳しい表情で見つめた。

 その後、司法記者クラブで記者会見に臨んだ菅家さんも終始険しい表情。「再審開始で気分は少し晴れました」と語る一方で「まだ晴れないところもある」。高裁が警察庁科学警察研究所(科警研)の当時の鑑定について判断を示さず、スピード審理した点を「科警研は間違っています。私は怒っています」と語り、警察、検察が既に謝罪した点を踏まえ「裁判官にもぜひ謝っていただきたい」とも述べた。

 弁護団は、当初のDNA鑑定を実施した科警研技師や学者ら11人の証人尋問を求めた。しかし、採用されず、前日の22日、高裁の矢村宏裁判長ら3人の裁判官の交代を求める忌避申し立てをしたが即日却下され、23日に異議を申し立てた。

 あるベテラン裁判官は「再審開始決定は、要件を満たす新証拠があるかどうかを判断すれば足りる。十分に判断できれば、新たな証拠調べは必要ないというのが標準的な考え方だ」と指摘。そのうえで「再審公判は原点に返って有罪・無罪を判断する。証拠請求が認められる可能性は今回より高いのでは」と分析する。

 ◇秋には再審開始 宇都宮地裁で

再審無罪までの流れ
再審無罪までの流れ

 再審開始決定に不服がある場合、特別抗告できる。その期間は決定日翌日から5日間で今回は28日まで。しかし、「期間の末日が土・日・祝日の場合期間算入しない」とする刑事訴訟法55条に基づき抗告期限は29日になる。検察、弁護側双方が特別抗告しないため再審開始決定の確定日は30日午前0時になる。

 再審公判は、1審判決を出した宇都宮地裁で秋までに始まる。無罪を求刑する「無罪論告」か求刑について言及しない「求刑放棄」を行い、同地裁が年内にも再審無罪を言い渡し、そのまま確定する見通し。【北村和巳】

 ◇高検次席、決定受け入れの方針

 再審開始決定を受け、渡辺恵一・東京高検次席検事は23日午前、東京・霞が関の庁舎で会見し、「検察として特別抗告しない」と述べ、決定を受け入れる方針を示した。また、弁護団が「高裁は誤判の原因究明をせずに決定を出した」と批判していることについては「検察として申し上げる立場にない」と語った。【岩佐淳士】

 ◇誤判検証の制度を

 死刑判決確定後、再審で無罪となった「島田事件」の弁護人、関原勇弁護士の話 被害を受けた本人や弁護人が捜査・裁判の検証を求める気持ちは理解できるが、検察側が再審開始を認めている以上、高裁で証拠調べをするのは難しいだろう。そもそも日本では誤判を検証する仕組みがないのが問題で、再発を防止し本人を救済できる制度を作るべきだ。

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