うちの「館長」知りませんか--。江戸時代の俳人・小林一茶(1763~1827)の出身地、長野県信濃町の町立一茶記念館に通っていた雄猫の行方が、4月中旬から分からなくなっている。「館長猫」と職員や来館客から親しまれ、事務室には専用席が用意されていたほど。俳句を詠みながら全国を回り、最終的には信濃町に帰ってきた一茶と同じように、関係者は「またひょっこり戻ってくるかも」と「風来坊」の帰りを待ちわびる日々だ。【大平明日香】
猫は記念館近くに住む杉山多美子さん(59)が飼う「杉山空(そら)」(2歳、雑種)。記念館には08年8月下旬に姿を見せ始めた。初めは駐車場をうろつくだけだったが、自動ドアを通って展示室や事務室まで来るようになったという。
空は毎朝午前8時ごろに「出勤」すると、事務室の机に飛び乗り、パソコンの前に座ったり椅子に寝そべったり。館内を巡回しては来館者にじゃれつき、おなかがすけば職員にねだる。午後5時半ごろにはきっちり「退庁」するなど、「館長の勤務」を毎日着々とこなしていた。
その空が姿を消したのは今年4月18日ごろ。16、17日の2日間、東京都からやって来たテレビ局の密着取材を受けて帰宅したところまでは、杉山さんが確認したが、その後行方が分からなくなった。同館では「迷い猫」として町内放送などで情報を呼び掛けているが、有力な手がかりは寄せられていないという。
小林一茶は猫を愛したことでも知られている。同館によると、一茶が詠んだ猫の登場する俳句は300句以上に上り、動物の中では最も多いという。「猫の子が ちよいと押(おさ)へる おち葉哉(かな)」などが有名だ。
一茶は信濃町で生まれ育った後、俳句の修行のために江戸や西日本を回り、50歳のときに再び郷里の同町に戻り、晩年を過ごした。同館の中村淳子学芸員は「空を目当てに来る客も多く、みんな寂しがっている。ある日また帰ってくるかもしれない」と話している。
毎日新聞 2009年6月23日 地方版