コラム

2009年06月21日号

【検察と政治】
検察独自捜査は何のために、誰のためにあるのか、西松初公判で検察が与えた政界への衝撃、小沢氏と民主党は「個人の問題」を「党の問題」と捉え司法史に例のない対応をしたのではないか?


●小沢氏の秘書は違法性を認識していた?
 周知のように西松建設の巨額献金事件で、政治資金規正法違反などの罪に問われた同社前社長、国沢幹雄被告の初公判が開かれた。
 検察側は冒頭陳述で岩手、秋田両県の公共工事をめぐる談合で、小沢氏の事務所が「天の声」を出し、業者を選定したと指摘した。
起訴された公設第1秘書が天の声を出したケースもあった、としている。検察側が明らかにした秘書の供述調書では、秘書は「西松建設側の献金と知っていた」という。違法性を認識していたとも受け取れる供述を検察官にしているのである。この供述が取れず、裁判で証拠申請できないようでは検察側が逮捕・起訴するはずがない。

●産経新聞配信記事
 産経新聞は19日22時52分、「西松事件公判 「西松にしてやろう」 大久保被告の関与強調」という見出しで次の記事を配信した。

 ■献金「わいろに類似」

「略…

 西松が平成7年から小沢氏側に違法献金をするようになった経緯について、検察側は、西松が小沢事務所との関係が良好ではなく、岩手県内の公共工事を思うように受注できない状況があったとし、東北で業績を伸ばすためだったと指摘。一方で西松は当時、小沢事務所から、それまで年間300万円程度だった献金を、1000万円以上に増額するよう要求されたこともあったと述べた。

 西松は同年、ダミーの政治団体などを使い、小沢氏側に約1300万円を献金。翌8年、小沢事務所に岩手県発注の国道トンネル工事の受注希望を伝え、この工事を落札した。これを受け、西松は同年、約2800万円を小沢氏側に献金したと指摘し、献金がわいろに似た性質のものだったとする見方を示した。

 注目された小沢氏の公設第1秘書で資金管理団体「陸山会」会計責任者、大久保隆規被告(48)の談合への関与について、検察側は西松東北支店幹部の供述調書を読み上げて、その一端を明らかにした。

 18年に入札が実施された岩手県の「遠野第2ダム建設工事」で、幹部は「大久保被告を訪ね『お力添えをお願いします』と依頼したが、『他社も営業に来ている』と色よい返事はもらえなかった」と供述。その後「1人で行ったら『よし分かった。西松にしてやろう』といわれた」と証言したとしている。

 さらに西松側が業績の悪化で、献金の減額などの希望を伝えた際、「大久保被告が難色を示した」とも述べ、大久保被告の関与の深さも明らかにした。」

●問題があった小沢氏の対応
 検察側が主張するように「天の声」を得るための金だったとすれば、西松建設からの献金趣旨は天の声を出した見返りの賄賂に近い。賄賂罪の構成要件、金額の差、権力の差はあっても、ロッキード事件の田中角栄首相、東京佐川急便事件、巨額脱税事件の金丸信氏の事件と類似した構図である。

 それなのに小沢氏は、だ。ここが問題なのである。

 小沢氏は秘書が逮捕されたことについて、『総選挙が取りざたされているこの時期において、非常に政治的にも法律的にも不公正な国家権力の行使と感じている」、「この種の問題で逮捕・強制捜査というやり方は民主主義を危うくすると考えている」「こじつけたような理由で検察権力の発動は非常に公正を欠くと思う」、「起訴などないと信じております」「遠からず嫌疑は晴れると信じている」とも語った。(読売新聞3月4日夕刊)

 そしてさらに、産経新聞によれば気『小沢氏は西松建設の違法献金事件で秘書が起訴される5日前の19日夜、鳩山由紀夫幹事長と都内の日本料理店で会談し、事件について、「検察の対応はあまりにもひどい。自分の身がどうなろうと構わないが、戦うことはあきらめない。検察が(24日に)どういう判断をしようと、徹底して戦う」と述べ、東京地検が起訴に踏み切った場合でも、公判を通し、無罪を主張していく考えを示した。
 そのうえで、「政権交代をして検察権力の乱用を一掃しなければならない」と、次期衆院選後、政権を獲得すれば、東京地検のあり方を見直すと強調した」という』(産経新聞)

●本誌編集長が斬る
 私は読売の記事、産経の記事を読み、小沢氏は後に臍を噛むことになると思った。国家の訴追機関である東京地検特捜部が、不公正な国家権力の行使、権力の乱用をすることはありえない。逮捕された秘書が全面否認できる証拠しかないなら、強制捜査に踏み切るわけがないからだ。
 そんなことをすれば麻生内閣が総辞職せざるをえなくなることは誰でも分かることだ。それなのに小沢氏は前述したように検察批判を繰り返した。民主党はこれに同調した。民主党はかつて司法の歴史に例のない対応をした。

 19日、検察側の西松建設の国沢幹雄被告に対する冒頭陳述に対し、民主党、自民党、小沢氏を支えたマスコミ関係者は衝撃を受けたと思う。秘書の無罪はありえない陳述であったからだ。

 小沢氏は「検察批判をするが、岩手、秋田県の公共工事の実態、西松との関係、大久保秘書に何をやらせていたのか、については殆ど説明しない。私は小沢氏の姿勢は「政権交代を求める政党の代表者あるいは大幹部」としてはいかがなものか、と声を大に言いたい。

「検察の独自捜査は何のために、誰のためにあるのか」が分からないと東京地検特捜部の小沢氏秘書逮捕・起訴は理解できない。特捜部の守る義務のあるのは公益、国民の権利だ。西松建設のやったことは、たとえ弁護人が主張する「競争に打ち勝つには献金が不可欠で、西松建設だけが献金をしないという選択は不可能だった」にしても、到底検察が認容できることではない。検察は特定の勢力、いわんや政権を持つ政党を守る機関ではない。
 私は検察に対し「民主党・鳩山政権誕生後に開かれる大久保被告の初公判で、胆沢ダムなどの実例について、西松ほかゼネコンとの癒着構造をさらに詳しく明らかにする」ことを期待する。たとえ政権交代しても「国家が守るべき公益とは何か」を国民が分かるように説明すべきであると考えるからだ。


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