警察に通知、「故意に近い悪質な医療行為に起因する死亡」−厚労省研究班
診療行為に関連した死亡の調査分析法などについて、昨年度から研究を進めている厚生労働省の「診療行為関連死調査人材育成班」の研究代表者を務める東京逓信病院の木村哲病院長らは6月21日、中間報告会を開いた。この中で、「届け出等判断等の標準化に関する研究」のグループリーダーを務める虎の門病院の山口徹院長は、医療安全調査委員会(仮称)が警察へ通知する範囲について、「『故意に近い悪質な』医療行為に起因する死亡」などとした。
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冒頭、あいさつした厚労省医療安全推進室の佐原康之室長は、「(厚労省の)第三次試案、大綱案に批判的な意見の中には、医療事故の調査と責任追及とは完全に切り離すべきだという意見がある」と指摘。こうした意見に対し、「医師や看護師という医療のプロとして、実施した医療に対する責任というものから完全に逃れることはできないのではないか。プロとしての責任からいたずらに逃れようとすれば、社会は逆にそれを医療界の無責任と見る。これでは医療界は社会からの信頼を失ってしまうのではないか」と反論した。
同時に、「プロフェッショナルとしての責任が理不尽な方向で追及されることは適切ではない」とも指摘。日常的に死と隣り合わせの医療における死亡事故の調査や評価は「医療者が中心となって、専門的かつ科学的に行われなければならないし、個々の医療現場の状況を十分踏まえたものでなければならない」「個人の責任追及を目的とするものではなく、医療の質や安全の向上に主眼を置いた調査や評価でなければならない」と述べた。
その上で、佐原氏は「医療者、患者、法律関係者、さまざまな立場の方がその垣根を越えて、信頼の上に新しいシステムのできるよう引き続き努力していきたい」と語った。
■「著しく無謀な医療」「リピーター医師」など
続いて研究報告が行われ、初めに山口氏が「医療機関から医療安全調への届出」と「医療安全調から警察への通知」の範囲について報告した。
厚労省の第三次試案と大綱案は、医療機関から医療安全調への届出範囲について、(1)誤った医療を行ったことが明らかであり、その行った医療に起因して、患者が死亡した事案(その行った医療に起因すると疑われるものを含む)(2)誤った医療を行ったことは明らかではないが、行った医療に起因して、患者が死亡した事案(行った医療に起因すると疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る)―のいずれかに該当すると医療機関が判断した場合としている。
山口氏のグループでは、これに関連して「明らかな誤った医療」「○○に起因する死亡」「予期された死亡」について、より具体的な内容を検討した。
その結果、「明らかな誤った医療」を「判断に医学的専門性を必要としない誤った医療」と定義。
また、「○○に起因する死亡」については、「○○によると医学的・合理的に判断できる死亡」とした。さらに、死亡が行った医療に起因すると判断する際の時間的な目安について、「事例発生後、2週間以内の死亡」「退院後24時間以内の死亡」とした。
「予期された死亡」については、「医療行為に伴い一定の確率で発生する事象(いわゆる合併症)として医学的・合理的に説明できる死亡」と定義した。
さらに、第三次試案で示された「医療機関からの届出範囲の流れ図」を、臨床的思考に沿って再構成した。
一方、医療安全調から警察への通知範囲について、大綱案では「標準的な医療行為から著しく逸脱した医療に起因する死亡」としている。
これに対し、同グループでは通知範囲を「『故意に近い悪質な』医療行為に起因する死亡」とした。具体的には、「医学的根拠がない不必要な医療」や、危険性が少なく、より有効的な選択肢があることを承知の上で、危険性の極めて高い医療行為を実施するなどした「著しく無謀な医療」、致命的となる可能性が高い緊急性の異常に気付きながら、それに対応する医療行為を行わないなどの「著しい怠慢」を挙げた。
また、故意や事実の隠ぺい、診療録などの偽造や変造、過去に行政処分を受けたのと同じか、類似した医療行為に起因して患者を死亡させた「リピーター医師」についても、通知範囲に含めるとした。
一方、悪意によらない通常の過失や、知識不足、不注意などによる誤った医療行為については、行政処分で対処するとした。また、極めて基本的な医学常識の欠如や、非常識な不注意による医療事故の取り扱いについては、今後の検討課題とした。
■診療行為、2つの視点で評価
続いて、「事例評価法・報告書作成マニュアルに関する研究」のグループリーダーを務める東大医学部附属病院血管外科の宮田哲郎准教授が、「死因究明の評価法について」と題して、調査結果報告書の作成に係る評価方法などについて説明した。
このグループでは、2007年度に作成された「評価に携わる医師等のための評価の視点・判断基準マニュアル(案)」の実地検証を「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」などで行い、同マニュアルの08年度版を作成した。
宮田氏は報告で、モデル事業で明らかになった調査結果報告書の作成に当たっての問題点として、診療行為の評価の視点や基準、道筋などがあると述べた。
診療行為の評価視点は、診療行為の時点においてその行為が適切であったか否かという評価視点(診療行為の医学的評価)と、結果から見てどのような対応をすれば死亡を回避できたかという評価視点(再発防止への提言)の2点に明確に区別する必要性があるとした。
また、評価の基準となる「標準的医療」については、▽各学会で示されているガイドライン▽医師一般に知られている診療方針▽医療機関の特性によって差のないもの−としながらも、ガイドラインは柔軟に適応されるべきものであり、特定の状況では特殊な診療も適切と認められる場合があることなどから、今後も引き続き検討し、明らかにすることが課題とした。
評価の道筋として宮田氏は、(1)診断の評価(2)適応の評価(3)治療手技の評価(4)患者管理の評価(5)システムエラーとしての評価−が望ましいとした。また、評価は「何をしたのか」だけでなく、「何をしなかったのか」についても行い、評価結果が一つにまとまらない場合は、複数の評価を列挙することを提案した。
具体的に、「適応の評価」では、選択した治療が標準的治療の範囲に入るかなどの評価を行うが、標準的治療法には幅があるため、評価を記載する際は、標準的な対処法が一つしかなかったと解釈されかねない表現は避けるべきとした。
■第三者機関、早期設立を
また、「医療の良心を守る市民の会」の永井裕之代表が、遺族の立場から「医療に安全文化を」と題した発表を行い、医療事故調査を実施する第三者機関の早期設立を訴えた。永井代表は医療機関の医療事故対応について、「組織防衛に走る」と批判。医療者が逃げずに誠意を示すことが重要とし、患者やその家族への公正な対応を求めた。また、現在行われているモデル事業について、「もっと発展させてもいいと思っている」「展開させることが(第三者機関の実現に)一番早いのではないか」と述べた。
更新:2009/06/22 22:45 キャリアブレイン
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