政府は6月の月例経済報告で、景気の基調判断を「厳しい状況にあるものの、一部に持ち直しの動きがみられる」と2カ月連続で上方修正した。与謝野馨経済財政担当相は「(足元の景気は)底を打ったと強く推定できる」と述べ、景気底打ちを事実上、宣言した。
5月の基調判断は「厳しい状況にあるものの、このところ悪化のテンポが緩やかになっている」だったが、6月は「悪化」の表現が7カ月ぶりになくなった。上方修正の要因は、自動車や電機などを中心に企業の生産の回復が大きいという。4月の鉱工業生産指数は前月比5・9%上昇し、過去2番目の伸びを記録している。
背景にあるのは、世界的に企業の在庫調整が進んだことだ。さらに、積極的な財政・金融政策の実施によって、極端な不安心理が後退したことも影響しているようだ。省エネ家電の購入促進策など政府の景気対策も個人消費に表れてきた。東京株式市場の日経平均株価が1万円前後に回復してきたこともムード盛り上げに一役買う。
とはいえ、企業業績の大幅な悪化により、夏のボーナスの大幅減が予想されるなど、これから雇用や所得環境の悪化が一段と深刻化するとみられる。過去最大規模の経済対策による消費刺激策も需要を先食いするだけといった見方もあり、一連の対策が一巡すれば消費が息切れするかもしれない。
メーカー側に減産緩和の動きはあるものの、例えば鉄鋼の場合、5月の粗鋼生産量は、8カ月連続して前年実績を下回った。在庫調整が残っているという。中国の内需拡大などが顕著だが、急激に減少した世界の需要が、金融危機以前の水準に戻ったわけではない。生産設備は過剰なままで、積極的な設備投資の再開も、まだ時間がかかりそうだ。
景気底入れというには、実態がいまひとつで、実感も乏しいというのが大方ではなかろうか。宣言の拙速さを指摘する声もある。その背景には、衆院の解散・総選挙が秒読み段階に入っていることがあるだろう。景気回復で「経済に強い麻生政権」を演出し、支持率を確保したい与党の思惑がうかがえる。
政治が目先の選挙対策に目を奪われて、景気対策の手綱が緩んでしまうのではないかと心配になる。対策が実効を上げるよう執行状況などを検証していくことが必要だ。さらに、景気の“二番底”に備え、経済財政政策を注意深く運営することだ。
コメの生産調整(減反)の基礎データに使われるコメ在庫量調査で、農林水産省の地方農政局や農政事務所職員によるデータの虚偽報告が、全国規模で行われていたことが明らかになった。汚染米の不正転売や労働組合のヤミ専従問題に続いて、またもや農水省の不祥事である。あきれるほかない。
5月に九州農政局と福井農政事務所で問題が発覚したことを受け、農水省が全国の担当者1850人を調査した。その結果、虚偽報告は16の農政局や農政事務所などに及んだ。最大1年間の停職をはじめ減給、戒告など処分を受けた職員は56人に上り、農水省がかかわった不祥事による処分者数としては過去最大規模となった。
実際には調査に行っていないのに出張費を着服したり、調査した農家に渡す図書カードなどのお礼を自宅に持ち帰っていたケースもあった。ずさんな仕事ぶりと言わざるを得ない。
問題の背景について農水省は、調査先の協力が得られないことがあったと説明しているが、だからといって虚偽報告が認められるものでもあるまい。業務を後任に引き継ぐ際に、継続を指示していた事例もあった。石破茂農相は原因を「なれ合い」と指摘したが、不正行為が常態化していたといえ、問題の根は深い。
農水省にとって最重要政策である減反制度を揺るがす不祥事にもかかわらず、本省幹部が一人も処分されなかったことに疑問の声が出ているという。汚染米事件後の改革で、農政事務所の廃止を含めた組織再編の議論が進んでいるが、単に出先機関に責任を押し付けるだけでは根本的な解決にはなるまい。
相次ぐ不祥事で失われた信頼の回復は急務だ。農水省は組織全体の出直しが迫られている。
(2009年6月22日掲載)