少ない元手で多額の外貨を売買できる外国為替証拠金取引(FX)について、金融庁は証拠金に対する売買金額の倍率を2年後に25倍以内に抑える規制案を示した。業者間の競争で400倍以上の取引が目立つ現状には懸念が強いものの、上限を25倍という水準で固定する硬直的な規制には疑問がある。
FXの参加者の多くは一般個人だ。家庭の主婦などが高いレバレッジ(てこの原理)をかけた取引で外国為替相場を動かすようになり、欧米でも「ミセス・ワタナベ」現象と注目を集めた。ただ最近は売買が伸び悩み、業者は顧客獲得を狙い競って倍率を引き上げた。
高倍率で投機が過熱すれば投資家の損失膨張や業者の経営不安につながりかねない。金融庁の規制は、こうしたリスクを指摘した証券取引等監視委員会などの要請に基づく。
FXだけではなく、外国の株式や原油などを規制の緩い取引所外でレバレッジをかけて売買する差金決済取引(CFD)が増えている。店頭取引の監視・規制を強める国際的な動きからも、FXも一定の枠組みの中で行われるべきだ。
しかし昨秋の米リーマン・ブラザーズ経営破綻後の相場変動率から算出したという水準で、上限倍率を固定する手法が正解とはいえない。米国では主要通貨で100倍までの取引が可能。金融規制は日本だけが強化しても取引の海外流出を招く。
倍率規制より急ぐべきなのは、営業規制の徹底とFX業者の経営健全化だ。売買参加には十分な知識や資金に余裕を持つ投資家の適合性が条件になる。金融庁は近くFX業者に顧客の損失が膨らむ前に取引を終える「ロスカット契約」などを義務付ける。営業規制などが徹底、機能しなければ、いくら倍率を低くしてもトラブルは根絶できない。
FXには東京市場の流動性を高め、相場急変を緩和する側面もある。投機を警戒するあまり規制が行き過ぎ、新しい市場を萎縮させてはならない。商品先物では各取引所が直近一定期間の変動をもとに商品ごとに証拠金の水準を決める。FXも行政ではなく、自主規制団体などが市場環境を見ながら上限倍率を決める柔軟な運用が望ましい。