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韓国ならではの空間、屋根部屋

【特集】韓国の建築(2)むさ苦しいながらもロマンあふれる風景

 「3階建ての細長い西洋式建物の屋上に、あれほど安っぽい住居空間があるという事実。この事実をわたしは一種の常識破りと考えざるを得ない。(中略)人間たちが激しく行き交う地上から遠く隔絶された空間。まるでその空間そのものにすでに絶望と苦悩が刻まれているかのようだ」(朴相禹〈パク・サンウ〉の小説『わたしの心の中にある屋塔房(屋根部屋)』より)

 吐き気がするような巨大な日常、遠くに見える高級マンション、頭上に美しく輝く星たち。これらすべてが自然と調和する空間。多世帯住宅の屋上の隅に、身を縮めるかのように存在する屋根部屋の話だ。

 いつのころからか、ドラマの背景としてよく目にするようになった屋根部屋。韓国の庶民にとっては日常の喜びと悲しみが染みついた空間だ。2002年の大統領選挙当時、李会昌(イ・フェチャン)候補が討論会を通じて「屋根部屋」の存在を知らなかったことが明らかになり、「貴族出身の候補」などと烙印(らくいん)を押された逸話を思い起こすまでもなく、この屋根部屋が象徴する庶民的なイメージはしっかりと定着している。

 住居用の建物で利用可能な空間を少しでも確保し、少しでも多くの収入を得ようとする家主側。そして少しでも安い部屋を借りたいと願う借り手側。双方のニーズが一致して登場した、まさに特殊な形の住居がこの屋根部屋だ。住宅の屋上に設置された水道水タンクの水が冬でも凍らないよう、タンクに階段を設置して「水道水タンク室」を作る家が従来からしばしば見られたが、この「水道水タンク室」を部屋として違法に改造したのがその始まりといわれている。建築家のイ・チュンギ氏は、「水道水タンクを水で満たして加圧ポンプを取り付け、水圧を維持する作業を行うために設置されたのが屋根部屋だ。1980年を前後して爆発的な人気となり、韓国の住宅街では一つの風景として定着した」と語る。

 屋根部屋の登場により、屋上は「天上の庭」のような役割を果たすようになった。居住空間を広げるため、地上では庭の機能がほとんど失われてしまったが、これが屋根部屋によって復活し、屋上に上がったのだ。しょうゆや味噌を保管する甕(かめ)、体を鍛えるためのバーベル、縁台やテーブルなど、従来は地上の庭にあった品々が屋上の空間に移動した。この新しい庭は、夕方になると都心の夜景を鑑賞できる見晴らし台にもなった。みすぼらしい外観は闇に包まれ、地上の熱気や騒がしさから分離された空間。この奇妙な魅力がクローズアップされ始めた。また『屋根部屋の猫』などのドラマを通じ、このロマンあふれる雰囲気は拡大再生産されて民衆に伝えられるようになった。一時は若い世代の間でブームが起こったほどだ。

 しかし、劣悪な環境とロマンが混在する屋根部屋も、徐々に人々の思い出の中に埋もれつつある。住宅街を占領している高層マンションやオフィスビルなどには、もはや屋根部屋などが入り込むすき間はない。その上、最近は屋上の空間をコーヒーショップやレストランなどの商業的な空間として活用するケースも増え、住居を目的とした屋根部屋は急激に減少している。

キム・ミリ記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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