(だれも責めないよ、だから) 真っ黒な応接室。鍵は掛かっていない。 「ヒバリー、入るな?」 形式ばかりの声。ヒバリのヒを言った時にはもう扉を開けている。 雲雀は黒いソファの上で体育座りをしていた。 「何でヒミツにしてんの?」 「…………嫌だから」 雲雀は雲雀らしからぬ声音で言った。 「女だからって手を抜かれるのも、女のクセにって言われるのも、全部」 雲雀は震えていた。その尋常じゃない震え方は、暗にそれだけではないことを示していたけれど、 まだそれを教えてもらえるまでには踏み込めていないことも知っている。 「オレは、ヒバリが好きだよ」 雲雀が顔を上げる。濡れた、黒曜の瞳。 「男の僕が?」 「男とか、女とか、関係ないと思う。オレはヒバリだから好き」 手を伸ばす。拒まれるかと思ったけれどそれもない。細い雲雀を抱き寄せた。 「好きだよ、ヒバリ」 その一言がとどめと言わんばかりに、雲雀はボロボロと大粒の涙を溢し始めた。 嗚咽を漏らさずに涙だけ流すその泣き方は、とても雲雀らしかった。 そっと、雲雀の手がオレの背に廻される。 しがみつくその力はとても弱いのに何だか強くて、オレも泣きたくなった。 あんたを変えてしまうくらい、そのアイデンティティーを奪ってしまうくらい、あんたはオレを求めてくれていたのか。 「ヒバリはヒバリのままでいい」 変わることは望まない。変えることは望まない。 この自由な鳥の、重石にはなりたくないんだ。 (魔法がとけてもきっと、王子は姫を見つける。) NEXT