Joe's Labo
城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・
 



「雇用を守れない経営者は、腹を切れ」

なんというかすごく昭和的で、共産党から国民新党まで泣いて喜びそうな発言である。
ちなみに発言者はトヨタの奥田会長(文藝春秋99年10月号)。
と聞くと、ちょっと意外に思う人も多いかもしれない。

トヨタといえば下請けへの苛烈さに加え、期間工・派遣などの非正規雇用を使って
減産時に雇用調整するスタイルを確立した企業で、保守・左翼問わず、
構造改革否定論者からは“新自由主義”の代表みたいに言われている企業だ。
(この新自由主義という言葉が何を指しているのか全然わからないのだが、
 どうも派遣切りのように「人を大事にしないこと」を指しているらしい)

その家元がこういう日本型雇用バンザイという発言をしているわけだ。
少なくとも雇用に関する限り、悪いのは日本型雇用そのものだろう。
「新自由主義のせいでいっぱいクビになったのよ!」ではなくて
「日本型雇用のせいでクビになったのね!」である。


「全員終身雇用なのが本来の日本型雇用だ!」なんて無茶苦茶なことを言う連中も
いるが、
雇用調整せずに組織が存続可能かどうかは、余剰人員を
指名解雇して不当解雇だと訴えられている社民党に聞いてみるといい。

弁護士でもある代表が懇切丁寧に答えてくれるはずだ。

現在の正社員と非正規の二本立て(および後者による雇用調整)は、よく言われるように
95年経団連(当時日経連)の「新時代の日本的経営」がベースとなっている。
前回述べたように、トヨタという会社は、このスタイルの典型企業であり、言い換える
なら新時代的経営の壮大な実験モデルと言ってもいい。
なにせ、現役の人事部長が
「トヨタ社員と期間工は身分が違うのである」と言っているような会社なので、
間違いない。

このモデルの概要は以下だ。
・コア業務を正社員に、単純作業を非正規に切り分け、不況時は後者で雇用調整
・労使は従来どおりの年功序列・終身雇用を維持(要するに労使の一体化)

上の奥田発言は、まさに労使の一体化を象徴するものだ。
トヨタにとっては人材流動化なんぞもってのほか、終身雇用こそ日本型経営の真髄であり
従業員は守るべき家族なのだ。
下請けや非正規雇用という存在は、そのための人柱という位置づけになる。

ところが、トヨタ型雇用モデルには死角があった。
切られた非正規雇用が「ああそうですか」とすんなり引き下がらなかったことだ。
トヨタにしてみれば不況になったので想定どおりに解雇し、組合にしてみれば下界の事は
露知らずとばかりにベア要求しただけなのに、全国からバッシングされてびっくりした
はずだ。

だが最大の誤算は、想定をはるかに上回る大波が来たことだろう。
期間工を少々減らした程度では収まりきらない。
こうなると、強固な年功序列組織を維持してきた企業ほど、かえってそれがアダとなる。
組織拡張のDNAが強いから、組織が肥大しきっているのだ。
他社に比べてトヨタだけぶざまな醜態を晒す理由はここにある。
80年代、関連する事業に手を広げ続けた電機と同じ轍を、今頃になって踏んだわけだ。

正社員にメスを入れるかどうかはギリギリのところだろう。
ただし、比較的機能していた報酬システムとしての年功序列制度は
これで完全に破綻するはずだ。

そうなると、他の大手で起きているのと同様、社内では過半数の30代飼い殺し状態が
出現し、それを見た若手の流動化が進むことになる。
(従来も3年で辞める人間はいるにはいたが、極めて少数だった)

そうなれば、正規と非正規をわけて、前者を過保護に包み込む必要性などなくなるわけだ。
壮大な実験モデルは破綻したといっていいだろう。
総括するなら、確かに長期雇用自体に「高い忠誠心」「ノウハウの蓄積」といった
メリットはあるのだが、それを引き出すためには組織の成長が不可欠だということだ。

従来、労働市場の流動化論者に対し、日本型雇用論者が決まって持ち出す成功例が
トヨタだった。
そういう人々はとても不思議な思考回路を持っていて、
「トヨタはこんなにひどいんです!下請けや非正規を搾取してるんです!」
と、普段はけちょんけちょんにトヨタの悪口を言うのだが(これ自体は間違いではない)
「そうですね、ダブルスタンダードは良くないですね、では格差の元凶である終身雇用を
廃止して、労働市場を流動化しましょうね」と言ってやると
「日本型雇用は素晴らしいんですよ!トヨタを見てください!」
と調子の良いことをぬかすのだ。
ついでに、こういうバカたちもしおらしくなってくれることを期待したい。

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コメント
 
 
 
私は逆に考えています。 (松本孝行)
2009-06-22 11:51:44
私は逆に、今回の非正規雇用者の首切りによるバッファで正社員の既得権が逆に強くなるんじゃないかな?と天邪鬼に思っております(笑)

今回の経済不安によって、非正規の方々がかなり職を失いました。それに比べて正社員は相対的に失職していません。これ以上経済が悪くならないという前提においては「非正規をバッファにして正社員雇用を守ることに成功した」とも言えるんじゃないでしょうか?

今のところ整理解雇もほとんど聞きません。ほぼ早期退職募集だけしか聞いていませんし、補正予算も組まれて一段落しています。これから整理解雇に突入するかと言われると、ちょっと疑問です。

ですので、逆に正社員既得権を守るためには非正規を増やせばいいんだ!(少なくとも今の割合を維持する)そうすることでみんなハッピーだと、経団連も連合もみんな思ってそうな予感がしています…
 
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