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社説

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選挙とネット―利便さ生かさぬ手はない

 明日はいよいよ衆院選挙の投票日。だれに、どの党に投票するか。インターネットで各党のマニフェストを読み比べてみよう――。

 こんな当たり前のことができない。マニフェストを政党や候補者のホームページ(HP)に載せたり、ダウンロードできるようにしたりすることが、公職選挙法で認められていないのだ。

 今やほとんどの国会議員がHPを持ち、日々の活動や時々の政策課題についての考えをブログなどの形で発信している。読者が意見を書き込み、時に政治家が答える。だが、こうした日常活動は、選挙が公示されたとたん、できなくなってしまう。

 マニフェストは、近年の選挙では有権者が投票先を判断するうえで重要な判断材料になってきた。なのに、候補者の選挙事務所や演説会場でしか手に入らない。有権者が最も情報を必要とするときに、逆に情報発信を閉ざしてしまう制度は全く不合理だ。

 こんな不便を解消するため、できるだけ早くインターネットを選挙運動に開放すべきだ。むろん、ネットになじみのない有権者に対しては、従来の紙媒体による運動をそのまま継続すればいい。せっかく普及した情報技術の利便性を大いに生かすべきだ。

 ネット選挙解禁を阻んでいるのは、自民党内になお根強い反対論だ。立派なHPをつくるのに金がかかる、ネット上での個人攻撃がもとで落選することになったらかなわない、というのが主な理由だ。

 しかし、その自民党でさえ9割以上の議員が何らかの形でHPを持っている。むろん、ネット上で無責任な中傷や妨害活動が横行するのは困ったことだが、これは何も選挙中に限ったことではない。

 一部の政治家の腰が重いのは、つまりは面倒なことはやりたくないということではないのだろうか。

 ここは政治家側の事情ではなく、有権者を優先して考えたい。一気に全面解禁とまではいかなくても、せめてマニフェストの掲載やダウンロードを認める公選法の改正を、この延長国会で実現してもらいたい。

 もう一つ、ネット経由で政治家や政党に個人献金できる仕組みの導入も真剣に検討すべきだ。ネット献金は法では禁じられていないが、手続きを担うクレジットカード会社などが消極的なのだという。

 個人献金のすそ野を広げるという大きな効果が期待できる。それは国民の政治参加の機会を増すことにもなる。

 自民、民主の有志議員が具体的な提言をまとめ、近くカード会社や銀行などの業界団体に働きかけるという。悪用を防ぐセキュリティー対策を講じる必要があるが、業界側の積極的な対応を期待したい。

株主総会―資本主義も経営も変わる

 株主総会のシーズンを迎えたが、今年はその風景が大きく変わった。

 昨年までは、「もの言う株主」などと注目を浴びていた外資系ファンドと経営陣との攻防が目立った。今年は、アデランスホールディングスで、米系ファンドのスティール・パートナーズの提案が通って社長が退任する事態もあったが、全体としてはいたって静かだ。

 企業が導入を競った買収防衛策の広がりもピークを過ぎたようだ。そればかりか、ファミリーマートのように防衛策を取りやめる企業も増えている。

 こうした変容は、世界的な金融危機を反映してのことだ。バブル経済を背景に企業が収益を膨らませ、その配分をめぐって株主が経営陣に揺さぶりをかける。こんなマネーゲームが盛んだった時代は吹き飛んでしまった。

 だが、株主の圧力が消えたわけではない。業績が悪化した結果、配当の減額や取りやめが相次いでいる。「業績悪化の理由は金融危機のせいだけか」「これからどうするのだ」という株主の不満は鬱積(うっせき)している。

 今回の金融危機で資本主義は変わると言われている。米国の借金づけ消費に依存した世界バブルの再現はないだろう。金融がもてはやされた時代が終わり、実物経済を担う産業が中核となって、いかにして新しい価値を生み出すかが問われる時代になりつつある。

 目先の利益や時価総額の極大化を追求してきた経営の軸足は、中長期の持続的成長へと移るだろう。環境問題などを克服しつつ、広く社会に貢献する形で製品やサービスの新しい市場を作り出す努力が大切になる。

 グローバル化した主要企業を中心に、今年の総会ではトップが交代するケースが目立つ。トヨタ自動車、ホンダ、東芝……。日立製作所やソニーは一足早く新体制に移行している。「変わる資本主義」への対応が狙いの一つだ。人事刷新をテコに、社内の資源を総動員し新しい経営に脱皮しようとしているのだ。

 業績の悪化と資本主義の変貌(へんぼう)は、企業を取り巻くすべての利害関係者に痛みの分かち合いを迫っている。株主総会は、株主の支持を固め直す場として一段と重要になる。

 「会社は株主のもの」という主張を盾に株主たちは近年、目先の配当増加や株価上昇を強く求めてきた。だがこれからは、投資の成果をねばり強く待つ忍耐力を持たなければ、本格的な経営体質の転換は難しくなっている。

 そのためにも、経営をどう変えるのかという具体的なビジョンを経営トップが明確な言葉で語らなければならない。対話を通じ、経営と株主との間に共通認識と信頼関係を築いていくほかに道はないからだ。トップのリーダーシップが厳しく問われる時である。

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