「1人殺すのは犯罪者だが、100万人殺せば英雄になる」といったのはチャプリンだが、ネズミ講も数億円だと犯罪になるが、1000兆円になると国民に堂々と発表できるようだ。先週、政府の経済財政諮問会議に出された「骨太の方針」の素案では、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2011年に黒字化する方針を放棄し、2020年ごろに黒字化するには消費税を12%に引き上げる必要があるという試算を公表した。これはバラマキ補正予算で発行する巨額の国債を、子孫の税金で償還しようというネズミ講だ。
しかし日本の財政赤字は主要国で最悪であり、とてもこの程度の増税ではすまない。政府債務のGDP比は2.17倍で、2014年には2.34倍にふくらむというのがIMF(国際通貨基金)の予測だ。基礎的収支を黒字化することは政治的に不可能だが、せめて赤字を半分にするためにも、GDP比14.3%も増税しなければならないという。これを消費税(税率1%でGDP比0.5%)だけでやるとすると、29%増税しなければならない。
年金も、生涯の年金・健康保険などの給付と負担の差が、1940年生まれの人はプラス4850万円であるのに対して、2005年生まれの人ではマイナス3490万円という試算がある。いま生まれる赤ちゃんは、誕生の瞬間に3500万円の借金を背負うわけだ。これは日本の年金制度が、同時代の現役世代が負担する「賦課方式」になっているためだ。これは引退世代Aは現役世代Bから受け取り、世代Bが世代Cから・・・というネズミ講方式だから、働き手が増える高度成長時代には支えることができたが、働き手が減ると行き詰まってしまう。
いま国債を発行して将来世代が税金で償還するのもネズミ講だ。税と年金を両方あわせると、いま生まれる日本人は、生涯で80万ドル(7600万円)の純債務を負い、税額は今の18倍になるという試算もある。これも借り換えていけば先送りできるが、基礎的収支が赤字だと、財政赤字が発散して債務不履行になる。国民がそのリスクに気づくと、長期金利の暴騰(国債価格の暴落)やハイパーインフレなどの破局が起こる可能性がある。そういう地獄を見るのは、私が年金をもらい終えたころにしてほしいものだが、ゼロ成長と少子化も世界最悪のペースで進んでいる日本では、そう遠くないかもしれない。