きょうのコラム「時鐘」 2009年6月21日

 北朝鮮が44年ぶりにサッカーW杯出場を決めた。アジア勢初のベスト8という「伝説」の歴史がある

念願を果たした選手たちは、幸せなのだろうか。期待に応えたのだから、うれしいには違いない。褒美が出るだろう。深刻な食料不足でも、練習後はたらふく食べられよう。夢の南アフリカ行きも実現する

ひのき舞台に立つ選手の大半は、国際社会から孤立する「金王朝」の民である。世界のサッカーを知るのは大きな喜びだろうし、厳重な監視の中でも自由な別世界を垣間見ることができるだろう。同時に、その自由と豊かさは、望んでも容易に手に入らぬことも知るはずである

幸か不幸か、北の独裁者も、跡目と目される三男も無類のサッカー好きと報じられている。「偉大なる首領」の「熱意あふれる指導」で、絶えず敢闘精神が問われるに違いない。それでも、常に勝つとは限らない。果たして選手たちは幸せだろうか

世継ぎの顔さえ定かならぬ謎の王朝である。先のことは分からない。1年後の本大会は、非情な独裁者の影も形もうせてしまった青空の下で、選手たちの熱戦を見たいと夢見る。