アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
国名の頭文字からBRICs(ブリックス)と呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国が先週、ロシア中部のエカテリンブルクで初の公式首脳会議を開いた。急速な経済成長が注目されてきた新興国を代表する国々だ。
会議で採択された共同声明によると、4カ国は、世界経済危機の克服や、欧米と日本が主導してきた国際金融機関に新興国と途上国の声をより大きく反映させるための改革に向けて協力を強めることを申し合わせた。多極的世界の構築を目指し、次回の会議を来年ブラジルで開くことも決まった。
BRICs全体で、人口は世界の4割を占め、08年の国内総生産(GDP)は約15%、外貨準備高も4割だ。外貨準備高は中国が1位で、ロシア、インドが3、4位で日本に続く。
だが、存在感が高まる割には、国際通貨基金(IMF)での投票権が欧米や日本に比べて制約され、発言権はおさえられている。このため世界経済の運営に十分関与できないまま、米国を震源とする金融危機の荒波をもろにかぶってしまった、という思いが強い。
いま、危機の克服には、力の限界が見えた先進国主導の「G8サミット」に代わって「G20サミット」が中心的な役割を果たしつつある。このG20にも参加するBRICsが、来月のイタリアでのG8サミットを前に独自の首脳会議の枠組みを立ち上げた。現在の世界秩序に対する不満の深さと、その転換を促してゆく決意の強さが見て取れる。
先進国の経済が失速するなか、内需を中心に高い成長を維持する中国とインドには景気回復の牽引(けんいん)役が期待されている。成長が鈍化したとはいえ、ロシアは石油や天然ガス、ブラジルは食糧の有数の輸出国である。4カ国が結束して打ち出す主張は、それなりの重みを帯びることになる。
とはいえ、BRICsは一枚岩ではない。資源の消費国もあれば輸出国もある。政治体制も多様だ。経済規模では中国が突出している。4カ国が政策で結束を維持するのは容易でない。
今回の会議の前に、ドル基軸通貨体制の限界を指摘する声が特にロシアから強くあがっていたが、首脳会議の共同声明は通貨システムの多様化を図るという穏健な表現となった。中国は米国債の最大の保有国だ。ドルが弱くなるのは好ましくないという判断が優先されたのだろう。
温暖化ガスの排出規制について4カ国は、社会発展の条件を考慮すべきだとして、削減目標の設定を事実上拒む姿勢を示した。だが、中国やインドが先進国なみの排出をしている以上、そうした主張には無理がある。
地球規模の問題を解決するために、存在感に見合う責任分担の姿勢を示してこそ、発言力も高まる。
「蔵のまち」で知られる埼玉・川越で、大工棟梁(とうりょう)の綾部孝司さんは「伝統木造構法」の家づくりを手がけている。だが2年前、耐震偽装事件をきっかけに改正建築基準法が施行されたため、その構法を施主にあきらめてもらうケースも出てきた。
改正基準法が、伝統構法の住宅にも高層ビル並みの厳しい審査を求めているからだ。
建築確認の手続きで、第三者機関などで構造計算が適正かどうか判定してもらうことが義務づけられた。「ピアチェック」という仕組みだ。費用がかさむうえ、複雑な構造計算やその審査に半年以上かかることもある。
綾部さんは「施主に余分な負担をかけるわけにはいかない。このままでは伝統構法が廃れてしまう」と嘆く。
そんな切実な声を受け止めて、国土交通省は昨年度から伝統構法の設計法づくりに乗り出した。大学の研究者のほか、大工棟梁らも加わった委員会で、3年がかりで計画を進めている。
木造の住宅を建てる際、ハウスメーカーの大半が採っているのは在来軸組構法だ。その現代の構法では合板や筋交いを使って壁の耐力を増し、揺らさないように造る。壁量計算という手法で容易に基準法をクリアできる。
現代構法の根底にあるのは、人間の技術で自然を克服しよう、地震力を技術で押さえ込もうという発想だ。
一方、伝統構法は自然には勝てないとの考えに立ち、地震力をやり過ごす柔構造に工夫がこらされている。
柱と横材でジャングルジムのような立体格子をつくる。地震の力をその構造の中に受け入れ、揺れながら分散し吸収する。土壁は揺れを抑えるが、限界を超えたら壊れて衝撃力をそぐ。
予想を超える激震に襲われたら、石の基礎の上に置くだけの柱脚がずれたり浮き上がったりして、地震の揺れが地盤から建物に伝わるのを遮る。
「石場建て」という伝統構法の最も重要な特徴だ。伝統構法による民家や神社仏閣はほとんどこの建て方だ。
ところが委員会では、「石場建て」による設計法が見送られそうな流れになってきた。大工棟梁たちは、伝統構法が現代構法のなかに組み入れられてしまうのではないかと危惧(きぐ)している。
「石場建て」はすでに関西では認められた例もある。国交省は振動実験などを重ねてその設計法をつくり、各地で建てられるようにしてほしい。
伝統構法の民家は、地震で傾いても接合部に大きな損傷がなければ引き起こして修復できる。崩れ落ちた壁土も再使用が可能だ。大地震をしのいで、いまも使われている築100年を超えた民家も少なくない。
地震列島で大工や左官が培ってきた技に謙虚に向き合い、その匠(たくみ)の知恵を生かしていきたい。