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エコナビ2009:EPA交渉 出遅れ日本

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 輸出拡大のため政府が力を入れてきた主要国との通商自由化交渉が停滞している。政府は、経済連携協定(EPA)などを締結することで、輸出入関税の引き下げを狙う。だが、実現すれば、市場開放が遅れた農業分野に打撃が広がる恐れが強く、反発が多い。交渉相手国側にも「日本の輸出攻勢に拍車がかかる」との警戒感が強い。韓国や中国は、欧米や周辺国との協定締結を進めており、日本の出遅れを懸念する声も出ている。【赤間清広】

 ◆農業が足かせ

 「日本は重要なパートナー。EPA締結交渉を早急に始めたい」。5月中旬に来日したカナダのキャノン外相は中曽根弘文外相との会談で、日加EPAの早期締結を呼びかけた。だが、日本側の対応は終始、慎重だった。

 世界貿易機関(WTO)は自由貿易体制を確保するため、加盟国に貿易相手によって異なる関税率を課す行為を禁じているが、EPAや自由貿易協定(FTA)を締結した場合に限り、通常の関税(最恵国税率)より低い税率を適用することを認めている。

 政府は「骨太の方針08」で09年はじめまでにEPA締結国を12カ国以上とする目標を掲げ、現在までに11カ国・地域と締結した。だが、相手国は、タイやインドネシア、フィリピンなどアジアの新興国が中心。米国や欧州連合(EU)など主要市場とは本格的な政府間交渉にすら入れない状態が続いている。

 原因は、自動車や電機製品など産業分野では関税の引き下げを求める一方、農業分野では守勢に回らざるを得ない日本の国内事情がある。カナダの対日輸出は豚肉などの農産物が主力で、EPAで関税が引き下げられれば国内農業への打撃は確実なためだ。

 米国や、政府間交渉を開始したオーストラリアとの間でも農業が最大の障壁となっており、経済官庁幹部は「農業問題という『足かせ』を抱えている限り、農業国とのEPA締結は難しい」と打ち明ける。

 一方、貿易規模が大きいものの農産物の取引量が少ないEUは、日本にとって「理想的な交渉相手」だ。しかし、慢性的な対日赤字を抱えるEU側は「自動車など日本の輸出攻勢が強まる恐れがある」と冷ややかだ。5月に開かれた日本とEUの定期首脳協議でも、具体的な検討項目は貿易以外の非関税分野に限定され、日本が目指すEPA交渉に向けた具体的な成果は得られなかった。

 ◆先行する韓国

 一方、輸出を経済成長の柱に据える新興経済国は2国間交渉を加速させている。その筆頭は韓国だ。07年4月に米国とのFTA締結で合意し、今年3月にはEUとも暫定合意した。

 輸出依存度が高い韓国は、コメを除く農産物の関税撤廃に踏み切るという思い切った決断を下し、これにより交渉が加速した。

 韓国は自動車、家電などの分野で日本と競合関係にある。特に、薄型テレビの世界シェアでは日本メーカーを圧倒している。EUは現在、自動車に10%、家電に14%の関税を課している。FTAが発効すれば韓国からの輸入品の関税はゼロになるため、日本のメーカーは「価格競争力で不利な立場に追い込まれる恐れがある」(家電大手)。

 中国も02年に東南アジア諸国連合(ASEAN)と関税引き下げに向けた包括的な枠組みで合意するなど、通商交渉に力を入れ始めた。湾岸諸国やアフリカとも経済協力に向けた交渉を本格化し、影響力の拡大を狙っている。

 ◆WTOに軸足

 日本は「欧米とのEPAの早期締結は難しい」と判断し、当面はWTOの多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の妥結に全力を挙げる方針だ。交渉が決着すれば、自国産業の保護のため高い税率を課してきた加盟国の関税が一斉に引き下げられ、EPAの出遅れを一気に挽回(ばんかい)できるためだ。

 ただ、ドーハ・ラウンドは昨年、合意直前で決裂した。今月25日にパリで非公式閣僚会合を開き、交渉を再開する予定だが、農業というアキレスけんを抱える日本をはじめ、各国の利害が鋭く対立する状況に変わりはなく、産業界からは交渉の停滞を懸念する声も出ている。

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 ■ことば

 ◇FTAとEPA

 自由貿易協定(FTA)は2国間または複数国間で関税を撤廃し、貿易の活性化を目指す枠組み。これに投資や知的財産保護を加えた幅広い自由化のルール作りをするのが経済連携協定(EPA)になる。インドネシアやフィリピンからの看護師・介護福祉士受け入れは、EPAに基づくもの。日本は世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉とEPAを通商政策の2本柱にしてきた。

毎日新聞 2009年6月21日 東京朝刊

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