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がんを生きる:鳥越俊太郎の挑戦/1(その1) 闘う姿、さらけ出し

CTスキャンの結果を担当医師に聞く鳥越俊太郎さん(右)=東京都港区の虎ノ門病院で2009年5月27日、武市公孝撮影
CTスキャンの結果を担当医師に聞く鳥越俊太郎さん(右)=東京都港区の虎ノ門病院で2009年5月27日、武市公孝撮影

 ◇おれがくたばるまでカメラで撮ってくれ 「記者の習性ってやつだね」

 胸や腹に、メスを入れた跡が9カ所ある。もう一生消えないだろうが、不思議と今では「生」の証しのように思えてくる。

 自らを「ニュースの職人」と称するジャーナリストの鳥越俊太郎さん(69)は、風呂に入る時、着替える時、いやが応でも肉体の刻印を突きつけられる。みぞおちから背中にかけ胴体をほぼ半周する傷は38センチ。これが一番大きく、一番新しい。

 2月10日。東京都港区の虎の門病院。鳥越さんは手術台の上に体を横たえていた。あばら骨が持ち上げられ、肝臓があらわになっている。執刀医が針を刺し、マイクロウエーブで一部を焼き切った。

 肝臓に転移したがんを切除する手術。ぎょっとするような光景を、ハンディーカメラが記録していく。撮影したのは、鳥越さんとイラク戦争の取材をともにしたディレクターの井手康行さん(37)。そして撮影を依頼したのは、全身麻酔で眠る鳥越さんその人だ。映像は編集され、後日テレビで放送された。

 鳥越さんの体に異変が起きたのは05年の夏のことだ。突然の下血で便器が赤く染まった。精密検査の日程が決まると、鳥越さんは井手さんに電話した。

 「おれがくたばるまで、一部始終をカメラで撮ってくれ」。突拍子もない頼みに井手さんは何事かと思った。

 検査結果は、予期した通りの「直腸がん」。その年の10月、腹腔(ふくくう)鏡による手術が行われ、この時からカメラが病室に入った。

 毎日新聞の記者を振り出しに、40年以上報道の一線にいる。人の痛みや秘密にも随分と立ち入ってきた。報道する意味があると判断してのことだ。

 ならば、と鳥越さんは思う。自分の場合はどうか。がんと闘う姿をさらけ出すことで誰かを勇気づけることはできないか--。今でこそ、病という究極のプライバシーを記録し公開する理由を、そう説明できる。3月には初孫が生まれ、命へのいとおしさは募るばかりだ。

 だが、最初は違った。「記者の習性ってやつだね。とにかく何でもかんでも記録したくなっちゃうんだよ」

 こうして、がんとのいっぷう変わった付き合いの幕が開いた。

  ×    ×

 がんと共生しながらニュースの現場に立つ鳥越俊太郎さんの姿を追う。【前谷宏】(社会面につづく、次回から社会面に掲載)

毎日新聞 2009年6月21日 東京朝刊

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