延長国会の焦点となっていた海賊対処法、改正国民年金法、税制改正法の重要3法が成立した。会期末まで1カ月余を残し一区切りついた格好で、今後は衆院解散のタイミングをにらんだ与野党の駆け引きが激しさを増してこよう。
重要3法はいずれも、参院本会議で野党の反対多数により否決された後、衆院本会議で与党など3分の2以上の賛成多数で再可決された。
海賊対処法は、ソマリア沖などの海賊対策で自衛隊の随時派遣を可能にする根拠法だ。ソマリア沖には現在、自衛隊法の海上警備行動に基づき、海上自衛隊護衛艦2隻とP3C哨戒機2機が派遣され、日本関連船護衛に当たっている。
対処法成立により、海上警備行動では認められていない、日本に関係のない外国船にまで護衛対象が拡大される。さらに武器使用基準も緩和され、警告射撃などにもかかわらず民間船に接近を続ける海賊船への射撃が容認される。
民主党は自衛隊派遣の際の国会事前承認を主張したが、受け入れられなかった。自衛隊の海外派遣がなし崩し的に拡大する危険性もはらみ、文民統制が確保できるのか、懸念はぬぐい切れない。ソマリアの政情改善なしに海賊問題は解決しないが、与野党でさらに修正協議を重ねるべきではなかったか。
改正国民年金法は、基礎年金の国庫負担割合を現行の3分の1強から2分の1に引き上げる内容。税制改正法は、住宅投資資金を対象に10年末まで贈与税の非課税枠を500万円上乗せするなど、景気刺激・経済活性化につなげるのが狙いだ。
年金法改正について政府、与党は「持続可能な年金制度にするためには不可欠」と主張してきた。必要な財源は年間約2兆5千億円。2009、10年度は財政投融資特別会計の「埋蔵金」で賄うが、11年度以降は消費税率引き上げ問題もからみ、安定財源のめどは立ってない。国民の年金への信頼が揺らぐ中、将来の制度設計まで踏み込んだ議論をもっと深める必要があったのではないか。
野党が重要3法の審議引き延ばしを図らず採決に応じたのは、早期解散を促すためだ。臓器移植法改正案の参院審議や北朝鮮を出入りする船舶の貨物検査を可能にする新法成立なども控えるが、延長国会の焦点が衆院解散に移ってきたのは間違いなかろう。政治的な駆け引きだけでなく、国会論戦を通して争点も明確にすべきだ。
文部科学省は全国の公立小中学校の校舎や体育館約12万5千棟を対象にした4月1日現在の耐震調査結果を発表した。震度6強の地震で倒壊の危険性が高く、緊急の耐震改修が必要な建物は7309棟に上ることが分かった。
昨年5月の中国・四川大地震では小中学校が倒壊し、多くの児童生徒が犠牲になった。学校は災害時に地域住民の避難場所としての役割もある。安全な場所でなければならない。
耐震改修が進まないのは自治体の財政難が大きな理由だ。全国平均の耐震化率は67・0%で、前年より4・7ポイント改善したものの、耐震性が不十分で未改修の建物は全国に約3万8千棟、耐震診断すら行われていない建物はまだ3千棟余りある。
四川大地震を受けて国は自治体が実施する耐震補強事業への国の補助率を2分の1から3分の2に引き上げた。さらに本年度は補正予算で「地域活性化・公共投資臨時交付金」が創設され、危険性の高い建物の補強工事では、自治体の負担も大幅に軽減された。
耐震化率が最も高いのは神奈川93・4%、次いで宮城と静岡が90・1%で、将来大地震の危険が叫ばれたり、震災を経験した地域だ。一方、中四国地方は遅れが目立つ。岡山58・2%、広島50・6%、香川59・9%と、いずれも全国平均を下回っている。岡山県内では耐震化率がいまだに5割以下の市もあった。倒壊の危険のある建物は248棟を数える。
過去に大きな地震の発生が少なかったことが影響しているのだろう。しかし、今世紀前半には、震度6以上といわれる東南海・南海地震の発生が予想されている。十分な備えさえあれば震災被害は小さくできる。対策を急がねばならない。
(2009年6月20日掲載)