保坂展人のどこどこ日記
政治、経済、文化を幅広く語る。
 



渡嘉敷島、集団自決の場で

11万人を集めた県民大会の翌日、私はかねてより念願だった「集団自決」問題の調査のために、渡嘉敷島に向った。朝9時の高速艇で島に向った私たちの一団に『沖縄タイムス』『琉球新報』両地元紙と琉球朝日放送のクルー、さらに『ニューヨーク・タイムズ (The New York Times』の記者・カメラマンも加わった。県民大会が相当の大規模な集会になることは、事前に予測していたから、「教科書検定」の対象となった「集団自決」と「軍の命令・関与」について生の証言をどうしても聞きたかったから、1週間ほど前からこの調査を企画していた。

 島に到着すると、大型ジャンボタクシーとレンタカーで1945年3月28日に多くの島民が「集団自決」をした現場へと向った。現在は、「国立沖縄青年の家」の広大な敷地の中に「集団自決の碑」が建っている。ガイドさんが、「多くの人が亡くなったのは、この先です……と竹藪の先の細い山道を指さす。木の枝で音を立ててハブを避けながら、私たちは山の中へと入った。傾斜のきつい山道の下り坂である。平坦なところはなく、左側は35度から45度にもなろうとする急斜面で沢すじとなっている。

「こんなところで……」と息を飲んだ。これまで文書で読んだ資料からは、一家や親族で円陣を組んで、手榴弾を爆発させたという光景が描かれていたので、私はてっきり集団自決の現場は「平地」「草地」なのだろうと思っていた。ところが、急な斜面では、そもそも避難する場にはふさわしくない。何日もここに滞在することは想定せずに「北(にし)山に行け」というシナリオがどこかでつくられたのか。昭和37年にこの場所は、アメリカ軍のミサイル基地のために接収され、昭和44年まで使用されていた。基地返還後、その跡地が『国立沖縄青年の家』になったという経過がある。

最初のインタビューは、小嶺正雄さん(77歳)に行った。小嶺さんは、悲劇の起きたその時、15歳だった。お話を聞いた。



「私たち家族が助かったのは、手榴弾が不発だったからです。前の日から激しい雨の中を歩いたので、手榴弾が湿って爆発しなかった。それで、生き残ったんです。
その手榴弾は、防衛隊員が持っていたものを近所の人たちに配ったんです。私も手を出しましたが18歳以上でないと渡せないと言われました。けれども、じっと待っていて、防衛隊員が去った後で残されていた手榴弾を2発ポケットに入れたんです」

小嶺さんも皇民化教育を受けた軍国少年だった。もし、手榴弾が不発でなかったら、この世にはいなかったはずだ。小嶺さんの周辺では、次々と手榴弾の爆発音がなって、人々が倒れていった。この場所より下ったところに日本軍の本部があり、小嶺さんと母親、妹もその方向に移動したという。

「もうこの玉砕場に集まっていた人たちの服装も異様だった。正月に着る着物を子どもに着せたり、羽織はかまを着てやって来た人たちがいたんです。最初から死に装束というか覚悟を決めて集まっていたんですね。私たちは、避難だと思ってきていたのですから……情報が一部の人には伝わっていたのかもしれません」

慶良間諸島でも軍隊が駐留しなかった島では「集団自決」を起きていない。「集団自決」を生き延びた小嶺さんは、島の北端の避難所で5カ月あまりの日々を過ごすことになる。日本軍が降伏したのは8月23日、その翌日に小嶺さんたちも山を降りた。食糧も限られ、海に潜って魚を取っている時に米軍機に見つかって、珊瑚礁を掴んで息を潜めていたこともあった。

「だけど、米軍より友軍が怖かったですね。山に隠れていて、夜に浜に出たのを見つかってスパイ扱いされる。うちの妻の親父は、日本軍が降伏してから、まだ山に隠れている家族を迎えに行く時に、米軍のチラシを持っていたのを(残存兵に)見つかって、首を切られました。山に埋められて、ずいぶん経ってから見つかりました」

小嶺さんは、県民大会にも参加した。「沖縄のためにこんなに多くの人が集まってくれてありがたかった」と言う。国会の場で文部科学大臣に伝言するからと何かありますかと聞くと「沖縄の悲惨な状況を(検定によって)覆さないように、よろしくお願いします。子や孫たちに平和な時代を恵んで下さい。この先に徴兵制など起こらないように」と語った。

小嶺さんは、15歳の時に家族避難用に防空壕を掘った。戦後60年、生きていくのが精一杯で思い出すことがなかったが、数年前に探したところ、ほぼ完全な形で残っていた。だが、小嶺さん一家がその防空壕に居たのはたった二晩だった。空襲で家も隣家に落ちた焼夷弾で焼け落ちてしまった。山の中腹にある防空壕に、案内してもらった。(続く)



翌日の朝、新聞に掲載されていたので紹介しておく。

(以下引用)

保坂衆院議員が渡嘉敷島で調査
「集団自決」聞き取り

高校歴史教科書の「集団自決」検定問題で、社民党の保坂展人衆院議員は30日、渡嘉敷島を訪れ、「集団自決」(強制集団死) で命を取り留めた北村登美さん( 97) と小嶺正雄さん(77)の二人から、当時の様子を聞いた。衆院文部科学委員会委員の保坂氏は「委員会でこの問題を取り上げ、渡海紀三朗文科相を追及していく」と述べた。
 小嶺さんは「沖縄の悩みや悲しみの体験、教科書の記述を覆さないでほしい。これからも平和な時代を与えてください」との文科相あてのメッセージを保坂氏に託した。北村さんは「手りゅう弾で長女を亡くした。当時のことは忘れられない。こんな悲惨は戦争は二度と起こしてはいけない」と訴えた。
 保坂氏は「軍の指揮下にあった防衛隊が手りゅう弾を配ったことが確認できた。集団自決の問題を委員会で取り上げる」と強調した。保坂氏は29日の県民大会に参加するため来県。渡嘉敷島では集団自決地やアリラン慰霊のモニュメントを視察した。(『琉球新報』10月1日)








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