英断
2009年6月19日
「株主総会に出席している山科の代わりに、最近はずっとFOTAのミーティングに出ていて、昨晩も1時ぐらいまでかかりました。だれも分裂は望んではいませんが、われわれにはこうするしかなかったのです」
そう語ったのは、木下美明TMG副社長である。
6月19日、イギリスGP初日。59年前に1回目のF1世界選手権が開催された記念すべき舞台で、FOTAが「FIAから離脱し、新しいシリーズを立ち上げる」と発表。その日の午後に、木下副社長が緊急の記者会見をパナソニック・トヨタ・レーシングのモーターホームで開いた。昨年からFIAと緊張状態が続いていたため、FOTAのメンバーであるトヨタは政治的な話題に関しては沈黙を貫いてきた。今回、木下副社長が会見を開いたのは、沈黙を守っていたために歪められた情報を正すためだった。ボクは政治的な話題は好きではない。しかし、木下副社長が勇気を持ってわれわれに口を開いてくれたので、今回のDiaryはこの話題について触れたいと思う。
「まず、みなさんにわかってほしいのは、われわれFOTAがFIAに対して反対していることは、いわゆるバジェットキャップ(予算制限制)ではありません。われわれFOTAの最大の論点は、いまのF1にガバナンス(統制)がないということです。
具体的にいえば、度重なる迷走状態をなんとかしてほしいのです。またコンコルド協定に関しても収益金の分配についてばかりクローズアップされていますが、われわれが納得していないのは、FIAとFOA、そしてチームの3者間のガバナンスがしっかりとできていないことなんです。それがないので、ある日突然、レギュレーションが変更される。インターナショナルスポーツコードの前文には、『F1に限ってはレギュレーション変更は2年間の猶予をもって施行する』という一文があったのに、それがいつの間にか消えてしまった。それがなくなったものだから、FIAは次から次へとレギュレーションを変更しているんです。
例えば、エンジン。8気筒になったことはまだ許せるとしても、それを3年間フリーズ(開発凍結)する。いや、4気筒ターボにする。やっぱり10年間フリーズする。それから、6気筒ターボにする。最後には10年間フリーズする。1年間に5回も変わった。
KERSにしても、そう。もっとわれわれの主張を聞いて、役に立つシステムをしかるべきタイミングで投入すれば良かったのに、無理矢理導入したもんだから、みんな振り回された。われわれトヨタはそれほどの開発費をかけずに済んだけど、一番お金をかけたチームは70ミリオン(約100億円)もかけて、結局役に立たないシステムに終わってしまった。でも、2006年にコンコルド協定が失効してしまっているために、こうしたFIAの暴走を、チーム側は止めることができない。
だから、われわれがFIAに提案したことは、『FIAとFOA、そしてチーム側がしっかりとコンコルド協定を結び直そう』というものでした。ところがFIAの回答は、勝手に決めた来年のレギュレーションの細部をわずかに修正する程度のもので、本質は変わっていなかった。それではわれわれは一緒にはやっていけません」
6月18日のFOTA会議は約5時間におよんだ。そして、彼らが下した決断は「新しいシリーズを立ち上げよう」というものだった。そして、集まったチームの首脳陣たちは新しい門出に乾杯しようと、夜中の1時にもかかわらず、シャンパンの杯を交わしたのだという。
この日、FIAの定例記者会見に出席したロス・ブラウン(ブラウン代表)、クリスチャン・ホーナー(レッドブル代表)、マーティン・ウィトマーシュ(マクラーレン代表)も、木下副社長と同様の見解を述べていた。お金があるチーム、そしてないチーム。さまざまなチームの代表がいま、FIAに異議を申し立てている。そのことからも、これがお金の問題でないことは明らかである。最後に木下副社長は、こう語った。
「われわれは何も新しいシリーズを立ち上げることが、最高の選択だとは思っていません。少なくともわれわれトヨタはアメリカでシリーズが分裂した経験をしていて(IndyとCART)、それがどのような末路に至ったも知っています。だから、もしFIAがわれわれの主張を理解してくれれば、まだ一緒にやっていける道は残されています」
時間はまだ残されている。FIAの英断に期待したい。
次回は6月20日に更新の予定です。
お楽しみに。
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にこ坊さん|2009年6月20日9時12分
まず、せっかくイギリスGPが開催されたのに、レースより政治に話題が集中してることが残念です。でも、私もこの話題が気になってたし、FIAとFOTAの争点をこのように説明してもらえるとありがたいです。
私見ですが、今回の騒動はどっからどう見てもFIAに分があるようには思えないですね。矛盾点が多いというか、めちゃくちゃ言ってるのはFIAのほうであって、FOTAが我儘を言ってるようには思えないのですが、実際のところどうなんですかね?
少なくとも、私個人はますますチーム側をを応援します。
絶対に負けるな!(そしてできればトヨタもレースでも勝って!)
セフィさん|2009年6月20日10時6分
個人的には分裂賛成です。
FIAのやり方は正直汚いと思います。
コスト削減は賛成ですが2重構造にしても何を基準にしてるのか疑問。
バジェットキャップについてもいきなり約60億にするのは無理がある。
チームに相談なしにレギュレーション発表したFIAに問題があるかと。
ここ数年モズレーの独裁政権みたいなのが続いていたので
こちらとしてもうんざりです。
F1は最高の技術の集まりなのに制限制限って・・・
それじゃ他のカテゴリーと一緒じゃん。
観客が減るのも無理はない。
個人的には新シリーズに期待です。
cubic-mさん|2009年6月20日10時52分
この分裂問題の私見は、ブログで更新することにします。
長々となりますので。
今回の分裂騒動は夫婦の離婚協議みたいなものだと思います。
木下さんは分かりやすく説明されていましたが、これは氷山の一角でしょう。
当人同士しか分からない問題もあり、傍目には分からない問題もあり。
ただ可哀想なのは、間で産まれた子供達(=F1ファン達)であって、当人同士はエゴがぶつかって、そこまで考えが至らない。
子供達は夫婦の離婚なんて望まないのにね…。
政争なんてどうでもいいので、ナイスなスポーツが観たいです。