--- ズレというのは、いったいどのような?
「90年代半ばには『新世紀エヴァンゲリオン』のブームもあって、アニメに対する言葉を発していこうという気運がありました。にもかかわらず、出来上がった本の多くはライターたちの意見や価値観が見えない、単なるデータの羅列か過去情報のリサイクルに過ぎないものが多かったんです。
当時はレーザーディスクのボックスセットが沢山リリースされて、作品自体はお金さえ出せば手に入る。でも、僕は情報化された映像やデータを手に入れておしまい、というのはおかしい気がしたんです。それぞれの作品には何が描かれているのか、自分はそれを最初に観た時に何を思い感じたのか。そういう触媒になるようなものがないと、ただフィルムだけが存在するという状況はまずいんじゃないか、そう思って書いたのが、最初の著書となる『20年目のザンボット3』という本なんです」
--- 作品資料としても充実した、「オタク学叢書」の一冊ですね。
「もちろん資料も重要ですが、まず “オレのザンボット3” みたいな価値観をもう一回きちんと示すことに意味があるだろうと思ったんですね。だから、あの本を読んだあとに『ザンボット3』を見た人が『そこまで凄い作品じゃないよ、だまされた』と思ったとしても、むしろそれぐらいでいいと考えていました。
誰かを触発して変えていこうというものがない限り、やってもしようがない。違和感があってそれを変えたいなら、動いてみるしかない。おそらく世の中のアニメ監督たちも同じような動機で作品を作り続けているはずです。
仕事だけで映像づくりをやってるだけという人は少数派だと思いますね。それは僕の中で一貫していることでもあるんです」
--- 現在の氷川さんの原点といってもいいものですね。
こうしてアニメ評論界の第一線へと飛び出したわけですが、制作現場に直接足を運ばれている立場から、今年最大の話題作となる6/27公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(以下『破』)の見どころも、お話できる範囲でお願いします。
「『破』を見る前には、まずは5月末にソフトがリリースされた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 1.11』(以下『序』)をチェックしておくといいでしょうね。劇場公開版よりも数分長くなり、追加アフレコやあちこち修正も入ってバージョンアップしています。以前出た1.01版のDVDを買った方は、ぜひ今度はブルーレイ版で。
『破』ではチラシやプレスシート、フリーペーパーなどに関わっているので、一般の方よりは多少は知っていますが、エヴァっていつも公開ギリギリまで変化し続けるものなんですよ。『序』の時も途中の資料はもちろん見たし、半完成状態のフィルムも随時見せてもらったのに、初号試写で見たら知らないことが多く描かれていましたから(笑)」
--- 徹底してますよね。
「今回の『破』は文字通り、エヴァを破壊していくことです。『破』って題名にそんな意味がこめられているので、みんな知っているようで知らないことが描かれるというか……。こうした変化も含めてエヴァという作品なんですね。非常に厳しい情報統制がされているのでファンのみなさんはヤキモキしてるかと思いますが、公開前に想像をふくらませている状態って、やっぱりとても楽しいものですよね。
アニメーションはそういう観客の想像力が加わってこそパワーを発揮するものなんです。僕が知る限りでは、『破』はそうした見る前の想像や妄想をいい感じで受け入れながらも、良い意味で裏切るものになっているはずです。
今年は『時をかける少女』の細田守監督の新作『サマーウォーズ』や、神山健治監督の深夜アニメ『東のエデン』の劇場版も控えてますから、アニメの話題作がかなり豊富な年だと思いますよ」
文:田中 元
撮影:上村写真事務所(上村明彦)
<次回予告>
次回は氷川竜介さんのインタビュー・後編をお届けします。パソコン通信の興亡やブログの可能性、アニメを見る目の養い方などを語っていただきました。公開は6月25日(木)です。お楽しみに!
<プロフィール>
1958年生まれ、兵庫県出身、東京工業大学卒。
'77年のアニメ、特撮、マスコミ黎明期から、出版やレコード制作に関わり約30年。一方で通信系技術者として電機系メーカーに勤務し携帯電話用のデータ通信機器を開発。2001年に独立して文筆専業に。理系の観点でアニメ・特撮作品の感動の根拠を解き明かす。
主な著編書は『20年目のザンボット3』『フィルムとしてのガンダム』『世紀末アニメ熱論』『アキラ・アーカイヴ』『ローレライ、浮上』など多数。
氷川さんが長年のキャリアを元に、作画や演出、美術など様々な角度からアニメ表現の特徴と楽しみ方を解説します。次回は、6/27(土)に「第2回/絵に生命をふきこむアニメート」というテーマで開催。初回を見逃した方も、単発でも参加できるので興味のある方はぜひ!
※「池袋コミュニティ・カレッジ」の公式サイトはこちら
文化放送の地上デジタルラジオのアニメ・ゲーム専門局『超!A&G』。その中の番組を紹介する『超!A&G+ナビ』にもパーソナリティとして出演中!インターネットでも配信中なので、ぜひチェックしてください!
◆『超!A&G+ナビ』
放送日:隔週月曜日16時00分~17時00分
出演者:鈴木久美子・氷川竜介
※「超!A&G」の公式サイトはこちら
<ブログ紹介>
『氷川竜介ブログ』
アニメや特撮を語らせたら当代随一、氷川竜介さんの個人ブログ。広範囲にわたる活動、寄稿や講演、出演などを随時告知していく他に、注目のイベントやオンエア中の作品、DVD パッケージや CD なども新旧問わず紹介。関係者だけしか知りえない情報もアップされることも!?
セレブの出すお題に答えてプレゼントをもらっちゃおう!
「あなたにとって、忘れられないアニメの名場面を教えてください」(氷川竜介)
今回は、氷川さんの個人誌『ロトさんの本 Vol.20 アニメとSFの親和性』を3名様にプレゼントいたします。昨年の日本SF大会での講演内容を収めた、なかなか入手できない稀少なものです。奮ってご応募ください。
お題に対する記事をコメントまたはトラックバックでお寄せください。応募以外の感想も随時受付中です!
2009年6月11日~2009年7月2日
(当選者発表は2009年7月9日当記事内3ページ目にて)
このエントリーのトラックバックURL
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/122498/45304990
※インタビュー記事に対して、リンクおよび言及のされていないトラックバックは削除することがありますので、ご了承ください。
コメントを書く
コメント
>「あなたにとって、忘れられないアニメの名場面を教えてください」(氷川竜介)
『機動戦士ガンダム』最終話「脱出」のラストシーン。
背面のまま漂っていくコア・ファイターが虚空の中へ
消えていく。
人でもなくロボットでもない、両者をつなぐインター
フェイスが最後をしめくくる選択の妙。
戦いと物語の終幕をキャスティングとしてこれ以上の
選択はない。パッと出てきたのはここでした。
投稿: ぷうぺら | 2009/06/12 12:37:46
>あなたにとって、忘れられないアニメの名場面を教えてください(氷川竜介)
未来警察ウラシマンの#49で、主人公の足元に、1983年の、雪の東京の風景が広がるところです。
それまで、空想の未来世界のアニメと思っていたウラシマンが、いきなり現実を背負って、目の前に現れたかのような、奇妙な気分にさせられました。
投稿: エッシャー | 2009/06/13 0:17:16
>あなたにとって、忘れられないアニメの名場面を教えてください(氷川竜介)
色々ありすぎてコレ!と位置づけするのは大変難しいですが
TVシリーズルパンⅢ世最終話『さらば愛しきルパン』
の最後、ロボットに乗った銭形が実はルパンの変装で
マスクを取るところがとても印象に残っています。
投稿: ルシ | 2009/06/13 23:39:27