Hatena::Diary

Chikirinの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2005 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2006 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2007 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2008 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2009 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 |

2009-06-16 告白

ちきお「ただいま〜」

ちきりん「お帰り〜。ちゃんと謝ってきた?」

ちきお「うん。ちゃんと謝ってきたよ。ちきりんもう寝るの?」

ちきりん「うん、もう寝る。警察なんか行って疲れちゃったよ。 ああそうだ、ちきお、この手紙読んでおいてくれる?」

ちきお「これ何?宛先も差出人も書いてないね。封を開けていいの?」


ちきりん「いいよ。開けて読んでおいて。長そうだから、明日要点だけ教えてくれる?」

ちきお「いいよ。確かに分厚い手紙だね。これどうしたの?」

ちきりん「よくわかんないんだけど、警察で駐禁の手続きして帰ってくる時にすれ違った知らないおばさんからいきなり手渡されたんだよね。」

ちきお「どういうこと?警察で?」

ちきりん「うん。警察の廊下ですれ違いざまに手に握らされたの。私はもう帰るところだったんだけど、その人は来たばかりだったみたい。なんか、物々しい感じだったよ。男の人に囲まれちゃって。あの人誰だろ?」

ちきお「ふううん、不思議だね。なんかやばいものじゃない?」

ちきりん「知らないけど、まあとにかく読んでみてよ。人目を忍ぶようにさっと渡されたの。だからきっと“みんなに伝えたい”ことが書いてあるんじゃないの?」

ちきお「ふうん。わかった。じゃあ僕が読んどくね。 お休みなさい!」

ちきりん「お休み!」


ちきお「ええっと・・・





前略


上司の元部長の逮捕ももう時間の問題だと思います。いろいろな憶測が流れると思いますので、私からも何らかの形で状況を皆様にご説明したいと思い、この手紙を書いています。

大変お手数ですが、この手紙を読まれた方、これを世の中に発表していただけませんでしょうか?不躾なお願いで恐縮ですが、何卒よろしくお願いいたします。


今回の件、動機がよくわからないと報道されてるようですけど、動機なんてあまりにも当たり前で説明する必要もないほどです。これは民も同じでしょうけれど、中央官庁でも一定のレベルから上になれば、大事なのは「政治力」です。実務処理能力とか、知識や専門性とか、そういうので評価されるのは若い間だけ。

私もあの頃はもう課長でした。本庁の課長といえば民間では部長、部門長くらいにあたります。そしてその課長にとっては“政治案件、議員案件をどう捌くか”っていうのは仕事力の基本中の基本。これが上手く捌けなくて局長にあがっていく人はいません。政治家をどう扱うか、扱えるか、それが高級官僚の出世を決めるすべてと言ってもいいくらいなんです。

特にあの時はとても政治との関係が大事なタイミングでした。障害者自立支援法の成立に向けて作業が佳境を迎えていたからです。ご存じのようにあの法律は画期的な法律なんです。あの法律によって、将来的にものすごい額のコスト削減ができるんです。

ご存じでしょう?厚生労働省では「いくらコストを抑える法律を通したか?」がすべてです。医療の質とか看護の質とか、どうでもいいんです。とにかく「医療費抑制」「薬価抑制」「介護費抑制」がすべてなんです。

今まで高齢者や医療にかかる費用の抑制には強引に成功してきていた厚生労働省ですが、障害者への支援費用を削減するのには誰も成功していませんでした。だから、「障害者への補助金を大幅に抑制できるコスト削減の切り札」となる障害者自立支援法の成立には、省益がかかっていました。そして私はその法律の担当者だったんです。


ところが、この法律は「コストカット」には絶大な効果がありますが、障害者の中には死活問題に感じる人もいる厳しい法律でもあります。内容詳細が世間に漏れてしまうと大きな反対運動が起こる可能性がありました。

つまり野党にしてみれば、その内容を世間に公開し「自民党はこんなひどい法律を推進している!しかもまた官僚のいいなりになっている!」という反論ができるうってつけの材料にできる法律だったんです。私は担当者として、そういう事態だけは絶対に避けなければならない立場にいました。これをどう丸く収められるかが、私が局長になれるかどうかの試金石だったのです。


すこし別の観点からご説明しましょう。今回最初に逮捕されている広告代理店などがすべて「大阪府」「兵庫県」にある会社だと言うことに皆さん、気がついていらっしゃいますでしょうか。だから動いているのも今回は大阪地検特捜ですよね。

これ、たまたま関西の会社ってことではないんです。こういう、障害者とか何とか対策団体とか、そういう会社っていうのは、基本的に関西にルーツがある場合が多いんです。おわかりになりますよね?表向きには分かりませんが、実質的には“ちょっと一般とは違う社会の方”が影響力を持っている団体が多いんです。そして何か新しい政策が決まりそうになると「弱者のこと、考えとんかぁ、お前ら。えぇ?」っていう感じの・・・ご意見を頂くことは厚生労働省にとってはよくある話なんです。

なので大抵は役所の方で、なんらかの商品やサービス(たとえば彼らが発行する雑誌の年間購読や、媒体への広告掲載など)を契約して、一定のところでご納得頂いたりするもんなんですけど。あの時はちょっと母体も大きかったみたいで、「わしらの考えてるのとはちょっと桁が違うなぁ」って言われてしまって・・・


私は、障害者自立支援法の成立にキャリア人生を賭けてました。いえ、人生を賭けていたと言ってもいいかもしれません。私は、ご存じのように高知で生まれ育った田舎者です。実際のところ、労働省じゃなければここまではこれなかったと思います。

なぜかって?労働省ってそういうところなんです。雇用上の差別を廃したり、弱者を守ることが担当する仕事ですから、省内でもそれなりに地方出身者とか女性、障害のある人に配慮した人事を行うんです。もちろん上に行くにはそれなりの力も必要です。ですけど、労働省でなければ私みたいな者にはチャンスさえなかったと思います。

私は・・・ああいう時代でああいう境遇でなければ東大に行くことだって全然難しくなかったと思います。学力だけなら簡単に進学できました。でも、そこまでする必要さえ感じなかったんです。公務員になりたければ試験を受けて合格すればいいんだと思ってましたから。そして実際、高知の大学から試験を受けて、合格し公務員になりました。なんの問題もなかったんです。

でも、今思えばやっぱり王道を行っておけばよかったかな、とも思います。もしも王道を行っていたら、私もここまで自分の実績にこだわる必要がなかったのかもしれないと思うからです。

実際、私は必死だったんです。すべての担当案件を、完璧に、誰からもなんの文句も付かないほどに完璧に処理することで、常に自分の力を、実力を周りに知らしめておく必要がありました。・・・王道を行っている人って余裕があるんですよね。一度くらい失敗してもいいとか、ぎりぎりのことを求められたら「そこまではやりません」って言えるとか。

私には・・・それができませんでした。


部長の言っている意味はわかりました。「上手く処理しろ」と。それは「後から問題にならない方法で」「彼らが満足する結果を実現しろ」という意味です。でも実際にいろいろ提案してみたけど「あのな、おばちゃん。そういう額やないんや」って・・。

これをそのまま上司に報告して詳細な指示を求めるのは「私にはこの案件を処理する力がありません」と告白するようなものです。最初にお話ししたように、政治案件をどう裁けるか、が課長の力の見せ所なんです。私はなんとしても「すべて上手く処理しました」というポーカーフェースを続ける必要がありました。


確かに・・・部下にも恵まれませんでした。ノンキャリのスタッフをどう上手く使うかも、力の見せ所なんですけど。彼らの中には当然私たちに従順じゃない人もいるし。そもそも彼らは被害妄想があるんです。汚いことはすべて自分達がやらされる。美味しいところは全部持っていくくせに、っていうね。

だから、この件の処理を私が彼に頼んだ際も、彼は露骨に嫌な顔をしました。いちいち私に確認をとりにきたり、言質を取ろうとしてきました。だから、今回彼が逮捕された段階で、ああ自分のところにくるなというのは分かっていました。いえ、彼に恨みはありません。彼だってもう公務員人生は終わりです。ノンキャリの人って、39歳であんなことになったら、もう本当に次の仕事は絶対見つかりませんから。彼は十分にとがめをうけていると思います。


元部長のことも恨んではいません。部長は私のために民主党対策を担当してくれてたんです。さっき書いたように、あの法律を通すには野党が騒ぎ始めるのを抑える必要がありました。だからあの当時部長は、毎晩のように野党の有力議員と食事したり、説明に行ったりして走り回っていました。

民主党は、法律が成立してから「あれは問題だ!」と言えばいいんです。そしたら国民から「野党民主党はよくやってる」という評価が得られるでしょう?法律が成立した後なら、正直言って少々問題になっても乗り切れますから。障害者が霞ヶ関でデモをする程度でしょ。それくらいならいったん成立した法律を撤回する必要は全然ありません。

だから、野党の大物の方には「騒ぐのは法律成立後にしてほしい。その時には情報を回しますから」と依頼に回っていました。それが部長の仕事でした。部長は私のために、厚労省のコストカット策の切り札であり、私の局長昇格の切り札ともなる自立支援法の成立のために、頑張ってくれていたんです。

部長はその中である人に何かを依頼された。で、それが私に降りてきた。


私は、確かに偽造までは求められてなかったと思います。でも相手が悪かったです。いつもの程度の額では収められなかった。彼らが考えていたのは桁が違う額でした。障害者団体認定を受ければ、郵送料は何十分の1になるんですから・・

最後に決めたのは私です。何度も部下をせっついて・・・彼が書類を作るように仕向けました。まあ、どこまで話すか、どこまで否定するかは、また弁護士とも相談しながら考えます。



最後にひとつだけ。

私、昔から秀才って言われていました。それにまじめでした。法律を勉強し、経済学を勉強し、福祉を勉強し、労働や女性の分野を勉強しました。そうやって一つずつ、勉強して考えて、正しいと思うことをやってきたつもりでした。

でも「政治案件をどうさばくのか」「関西の特殊な団体とどうつきあうべきなのか」は、どの教科書にも載っていませんでした。人生って皮肉なもんです。教科書に載っていないことが結局のところ一番大事なことなんですから。


もう時間がありません。ここで筆を置きましょう。もうすぐ特捜からの連絡があるでしょう。着替えも用意しておきたいし。長文を読んでくださった皆さん、ありがとうございました。


それではまたいつか、お会いする日まで。

call_me_notscall_me_nots 2009/06/16 20:50 引き込まれました。
結果、一度もちきりんさんのところには書き込んだことのないコメントを、ブックマークではなくブログに書き込んでしまうことになりました。


ただ、私に出来るのは冷静に「面白かった」ということだけなのでしょう。
それ以上のことはなんだか、言ってはいけないのでは、という気分になりました。


そんなことはないんでしょうけど、おそらく、そんなことはないんでしょうけど。


また、来ます。

dummy_masakidummy_masaki 2009/06/16 21:03 ちきりんさん妄想すごいですね…。
俺も妄想はするけど、ここまでストーリー立ててはできんわ。

atmarktvatmarktv 2009/06/16 21:25 うーん、わたし前から思ってたんですけど
Chikirinさんて脚本家になれますよね。
いや、ぜひなってほしいです。

WATERMANWATERMAN 2009/06/16 22:35 まあこんなところでしょうねえ。
根本には、そういう団体の横槍を許すような空気が醸成されているのが問題なのですけどね。
とはいえ、今では暴力団がそういう団体に偽装していたりするそうですが。

tarowattarowat 2009/06/17 02:08 三浦しおんかと思いました…。

今回は「妄想かつフィクション」の断りは無いんですね〜。妙にドキドキします。

demosicademosica 2009/06/17 07:42 こんにちは、。それにしても今時、東大とか出たとして高級官僚コースとか乗りたがるひとっておるのかねえ?と改めて思いました。こんなハイリスク・ローリターンの進路あらへんですわ。

#. 政治家案件で塀の上を歩かされること多そうだし
#. 且つ政治情勢でそれが明るみに出されたりしてスケープゴートにされること多いし
#. 警察・検察にとっても高級官僚逮捕ってのは狙いどころだし

その上で日本独特の、(悪)平等主義での安い給料を、天下り&その退職金で辻褄合わせって構図・・60歳になってからやっとお金給付されてもなあ(若いうちからちゃんと貰いたいぞ)、その天下りも近い将来には撲滅されるのは目に見えてる・・

普通に考えて、霞ヶ関・永田町で政治家とツルまされるよりは、普通に高給取りになって六本木ヒルズででも遊んでたい(藁)

tanken-taitanken-tai 2009/06/17 11:44 おはようございます

昨日の引きは凄かったですね
少年ジャンプかと思いました・・・・
ここ30年くらい読んでませんが

gurigurimomongagurigurimomonga 2009/06/17 11:46 関西って、北海道出身の人間から見たら、しがらみ多くて闇の構造もあって、区別だか差別だか分からんが、寄ってたかって上手く利用して、よすがの詐術としていたり、魑魅魍魎なんだな。
北海道は、開拓してから百五十年しか経ていないので、このような複雑で見えない利権構造的な階級は無い感じだ。内地の人間にこんな施策を導入されて振舞わされる、所得は低いわ、苦労するわで、たまらんな。
正直、おいら関西には住めない気がする。同じ日本人で棲み分けする地域だもん。