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きょうの社説 2009年6月19日
◎雷防護ビジネス 多発地帯の「悩み」を「強み」に
石川県の誘致企業と、金沢ケーブルテレビネットが画期的な雷対策の機器を共同開発し
、製品化に向けた準備を始めた。電子機器を落雷から守る装置は、雷被害がどこよりも深刻な地域だからこそ生まれたニッチ(すき間)市場向けの製品であり、雷多発地帯の「悩み」を「強み」に変える技術といえるだろう。産学共同で進んでいる「消雷装置」の開発なども含めた「雷防護ビジネス」が大きな市場をつくり出す可能性に期待したい。情報通信技術の進展で、雷による通信ネットワーク機器などへの被害は年間1000億 円を超える。全国市有物件災害共済会によると、北信越支部の雷被害による災害共済金額は全国平均の約2・5倍という。そんな雷被害の悩みを逆手に取り、雷の研究で知られる金沢工大の饗庭貢教授が昨年、落雷を50−70%ほど消滅させる「消雷装置」の実用化にこぎつけた。さらに雷雲から電気エネルギーを集め、蓄電する「雷発電」の研究も実用化へ向けて動き出しており、雷研究がビジネスチャンスを生む事例が相次いでいる。 志賀町の白山エレックスと、金沢ケーブルテレビネットが特許出願した試作品も、そう した雷防護ビジネスの一つだろう。白山エレックスは通信機器防護用品の開発・製造などを手がける白山製作所(東京)の関連会社で、志賀町の能登中核工業団地に工場を置いている。 CATVは、電柱などに無停電電源供給装置を多数設置しており、落雷があると電源機 器が故障し、放送サービスが停止に追い込まれることがある。既存の防護装置は、電力線から入る雷しか防げないが、共同開発した試作品は、電力線だけでなく、ケーブル幹線やアースなどあらゆる方向から入る雷を防護できる。計画通り製品化できれば既存製品より高性能で、販売価格も安く、CATV各社への販路が開けるという。 金沢地方気象台によると、金沢の年間雷日数は07年が58日、06年は45日、05 年は72日に上る。飛び抜けて多い日数だが、最近の雷防護ビジネスの活況ぶりを見ると、「必要は発明の母」という言葉を思わずにはいられない。
◎臓器移植法案可決 広がるか「脳死は人の死」
脳死を一般的に人の死とするか、それとも今まで通り臓器を提供するときだけ人の死と
するか。これが最大の争点だった臓器移植法改正4案の衆院採決は、現行法の抜本的な見直しを意味する前者が可決された。法案は15歳以上の提供可能年齢も撤廃し、成立すれば、子どもの移植を含め、法施行 後11年半あまりで81件にとどまる脳死移植の扉が大きく開くことになる。4法案が過半数に達せず、すべて廃案になる可能性もあったなかで、法案が可決にこぎつけ、政治が一つの意思を示した点で大きな前進といえる。 棚ざらしになっていた改正法案は世界保健機関(WHO)の海外渡航移植制限の動きを 受け、改正機運が一気に高まった。いわば外圧に背中を押される形で国会が重い腰を上げたわけだが、実質審議はわずか9時間にとどまった。 可決法案は本人意思を尊重し、臓器提供に限って脳死を人の死とする現行法の核心部分 を変える内容である。人の死の概念をめぐる重いテーマからすれば、議論が性急だった印象は否めない。他の法案を支持する議員の間では、参院での対案提出や修正の動きが本格化し、埋めがたい溝の深さもうかがわせる。解散も絡んで審議の行方は見通しにくいが、この案を軸にして課題を整理し、立法府としての結論を導く必要がある。 臓器移植法の目的は提供者を増やし、移植医療を普及させることにある。その点では、 臓器提供を広く解禁し、それを認めない人は脳死判定を拒否できる今回の法案は現状打開の有力な選択肢ではある。一方で、日本の移植法が世界に例のない厳しい解釈で運用されてきたのは、個人の死生観を尊重し、移植医療との両立を図るためであり、新法案は移植医療との関係でできた限定的な概念を人の死全体に波及させる可能性もある。 「脳死は人の死」という考え方が広がるような環境はまだ十分に整っていないのが現実 だろう。海外に頼らない移植治療は理想的な姿ではあるが、大人より困難とされる子どもの脳死判定の在り方など詰めるべき課題は多い。
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