秩父市役所の4階にある、かつて暗室だった小さな部屋に新聞がぎっしりと積まれている。数カ月前の新聞を探していて偶然、古びた写真の引き伸ばし機を見つけ、しばし感慨にふけった。
電車の車掌に原稿を託して運んでもらう「原稿便」で記事を出稿していた時の名残だ。20年ほど前になるだろうか。送稿は電車からファクスになり、新聞社の文明開化が始まった。鉛筆はワープロに、そして今はパソコンだ。
写真現像に使った暗室も必要なくなり、機材だけが昔をしのばせる。情報収集、伝達機器の発達に度肝を抜かれ続けているが、「取材は足で」は今も変わらない。
最近はメールで連絡してくる友人が多く、受話器を取ることも減った。「電話の声は人を表す」と言われたころを懐かしみながら、新しい機器に振り回されているのは私だけでしょうかね。【岡崎博】
毎日新聞 2009年6月19日 地方版