私は昨日、極小さな規模の戦争を見た。
理由は呆れる程些細なことだった筈。
祖父が狂った様に怒鳴って、暴れた。家の中が滅茶苦茶に為った。
母も大声を上げて、祖母は泣いて居た。
私は祖父が大好きだ。頭が良くて、何でも知って居る博識の祖父が、大好きだ。
歯車が狂い始めたのは何時からだったろう?
私が学校に行かなく為った頃から?
私が団欒で食事をしなく為ってから?
判らない。
私は厭なことが在ると直ぐに自室に逃げるから、祖父が誰かと言い合いを始めたのが判ると直ぐ部屋に入った。
馬鹿みたいに大きな罵声と、色々な物が崩れたり、壊れたりする音と、祖母の悲鳴。
我慢出来なくなって、部屋から出て、祖父に向かって水をぶち撒けた。
標的は私に向いたので、また部屋に戻って、ドアを必死に押さえて居た。
ドアを叩きながら大声を上げて、私を罵倒する祖父。
母がそれを必死に取り押さえて呉れたらしく、暫くすると静かになって、再び居間の方から先刻と同じ様な声や、音が聞こえ始めた。
私は何も出来なかったし、何も聞きたくなかったし、何も見たくなかったから、大音量のヘッドフォンで耳を押さえて、あらゆるものを遮った。
産まれて初めて恐怖で体が震えた。
泣きながら過喚起が出そうに為るのを抑えた。
「助けて」と誰かに言いたかったけれど、私は私を助けて呉れる人を知らなかった。
父親の顔が浮かんだけれど、今更あんな人に頼れる筈なんて無い。
諦めて、自分は独りなのだと認めることにした。
随分時間が経って、ヘッドフォンを外すと、静かに為って居た。
家の中の物が色々と壊れて居た。母は指を骨折したらしい。
泣き止んだ後も最高に体調が悪かったので薬で無理矢理眠ろうとしたけれど、こんな時に限って少しも効きやしなかった。
私は昨日、ごく小さな規模の戦争を見た。
此処がもしも日本じゃなくて、手軽に扱える武器が在ったら、きっと誰かが使って居た。
こんなに小さな家の中で、たった四人の男女と、大人と子供が、当たり前の平穏な生活を送れないのだから、世界平和なんて訪れる筈がないと思った。
何て馬鹿げたことを私達は信じて、生きて居るんだ。
意味が判らないことばかりだ。
それでも私は祖父も祖母も父も母も愛して居て、傍に居て欲しい等と願って居る。
全部戻って来ないのも知って居て、何もせずに居る。
多分こうして、あらゆることがばらばらの儘に時間は淡々と過ぎて行って、総て亡くした後に私は後悔するのだろう。
本当に馬鹿げて居る。