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- No. 035
北極大変動 氷が消え悲劇が始まった
2008.05.30
北極海に浮かぶスバルバル諸島(ノルウゥー)。 ホッキョクグマの大国といわれています。 今、ここにいるクマたちが大変動にさらされています。 飢えで死んだホッキョクグマの子どもです。 氷と共に生きるホッキョクグマに絶滅の危機が迫っているのです。
クマに襲いかかっているのは地球温暖化です。 人間が出した二酸化炭素によって、北極では地球のどの場所よりも急激な気温上昇が起こっています。 そのため、氷が急速に消えているのです。 北極海を覆っていた氷は縮小し、2007年には、1980年の6割の面積になってしまいました。 これは観測史上最小の記録です。 北極の異変は地球全体にも及ぶ、と科学者たちは警告しています。 氷がなくなれば、地球温暖化がさらに加速する可能性があるのです。
加速する氷河の流出
北極海に面したグリーンランド。地球上の氷の1割が集中しています。
氷に覆われた地形が、どこまでも続きます。大地の上の氷は、自らの重みでゆっくりと流れ氷河となります。
ここは、ヤコブスハーベン氷河。
ユネスコの世界遺産に指定されています。
この氷河の流れが、ここ数年で急激に加速し、大量の氷が失われています。
右が氷河。左は氷が浮かぶ海です。次々に氷河の縁が崩れ、氷山となって海に流れ出しています。 氷河の縁は、この5年間で7.5kmも内陸に移動してしまいました。 1年に150ギガトン。アルプス氷河全体の2倍にあたる氷がグリーンランドから消えているのです。
グリーンランドの氷に何が起きているのか。2007年夏、私たちはその調査をしている科学者をたずねました。 広大な氷河の上をヘリコプターで飛ぶと、不思議な光景が見えてきます。氷河の表面に無数の川ができているのです。 氷が溶けてできた水が、青く光りながら川となって流れています。
コロラド大学のコンラッド・ステファン博士は、この川の水と氷河流出との関係を探っています。 博士が調べているのは、氷に開いた大きな穴です。
この穴は、ムーランと呼ばれています。 直径10メートルにも達する巨大な空間です。 穴の奥底から水の流れる音が聞こえます。 博士たちは、特殊なレーダーを使って、穴の構造がどうなっているかを調べています。
このレーダーを穴の中心によっくりと降ろし、周囲の壁までの距離を測ります。
これは、レーダーのデーターを基にしたCG映像です。
計測できた深さは138メートル。
外壁にはいくつもの突起がありました。これらの突起は、雪の下に埋もれた川の跡です。
幾すじもの川が、このムーランに流れ込んでいたのです。
このムーランは、氷河が溶けた水によって、何年もかけて巨大な穴になったのです。
グリーンランドの表面で氷の溶ける量は、地球温暖化によって例年より3割も増えています。
それに伴い、ムーランの数が増えている、とステファン博士は考えています。
- 周囲には、幾つものムーランが新しくできていました。
- 川から勢いよく水が吸い込まれていきます。
- 水が、滝となって流れ落ちています。
- 毎秒2トンという大量の水が、ムーランの奥深くまで流れ込んでいます。
- ムーランとは、風車という意味です。
- 壁には、その名の通り水で削られた螺旋状のすじができています。
- 100メートル程下に水面がありました。
- 穴はさらに続き底は見えません。
- 水がどんどん吸い込まれていきます。
- ムーランは、氷河の下の岩盤に達していると考えられます。
氷河の流出を加速しているのは、岩盤に達する水ではないか、とステファン博士は考えています。そのメカニズムです。
氷河の表面で溶けた水は、
ムーランを通じて氷河の下に入り込みます。
すると、氷河がわずかに浮き、岩盤との摩擦が小さくなります。
氷河の流れは加速し、大量の氷が海へと出て行くのです。
コロラド大学 コンラッド・ステファン博士
「 現在の温暖化予測では、グリーンランドの氷が溶けると100年間で海面が40cm上昇するとされています。
しかし、ムーランによって氷河の崩壊が加速すると、この数字ははるかに大きくなるでしょう。 」
もし、グリーンランドの氷がすべて溶ければ、世界の海面は6メートル上昇します。 氷河の下に大量の水が流れ込むムーラン。温暖化による危機は、これまでの予測を超えて進行しているのです。
変わる北極の生態系
数万年にわたって北極を覆ってきた氷。 その氷が急速に減少し、北極の生態系に大きな影響が現れています。 その様子を取材するため、私たちは、ホッキョクグマの大国といわれるスバルバル諸島(ノルウェー)を訪れました。 スバルバル諸島最大の島 スピッツベルゲン。尖った山々、という意味です。 この独特の地形は、長い時間をかけ氷河が削ってできたものです。
島には、トナカイやライチョウなどの動物が沢山みられます。雪と氷に囲まれた環境に適応し、ゆったりと暮らしてきました。 島の生態系の頂点に君臨するのがホッキョクグマです。大きいものは、体長2.5メートル、体重800kgにもなる地上最大の肉食獣です。 ホッキョクグマは、世界で急激に数が減り、に指定されています。 そのために、ここスバルバル諸島では、ホッキョクグマを狩することは一切禁じられています。
ホッキョクグマには、海の氷が欠かせません。氷の上で寝ているアザラシを狩するためです。 エサの8割以上はワモンアザラシです。 ワモンアザラシは、氷の上の雪に穴を掘り、春先にそこで出産します。 このアザラシの子どももホッキョクグマの大好物です。
巧妙に隠された巣を鋭い嗅覚でみつけます。そして、雪の上から押しつぶしアザラシを捕らえるのです。 エサを捕るため一生のほとんどを氷の上で暮らすホッキョクグマ。 その氷が、今、地球温暖化のために消えようとしています。
2007年3月、私たちはスピッツベルゲンの東海岸を移動しながらホッキョクグマを捜すことにしました。 この時期は、アザラシの子どもを狙ってクマの行動が活発になります。 との途中で私たちは、驚くべき光景に出会いました。 まだ気温が氷点下20℃を下回るにもかかわらず、海に氷がないのです。 水面がのぞき、普段ならもっと遅い時期にやって来るはずのハジロウウミバトの姿もみられました。 辺りを見回すと、いたるところで海の氷が薄くなっていました。 動き回ると薄い氷を踏み抜く可能性があり、非常に危険です。 私たちは進むのを諦め、この周辺でホッキョクグマを待つことにしました。
取材を始めて3日目、私たちはホッキョクグマの親子と出会うことができました。 母グマの後ろに子グマが2頭続いています。 この冬生まれた子グマです。
こちらは別の親子です。 子グマは1歳に達しています。 ホッキョクグマの子どもは、2年ほど母乳を飲んで成長します。
それにしても沢山のクマです。 ガイドの話では、わずかに残った氷の上に、クマが集まっているのではないか、ということです。
クマは集まると子連れのメスは大きな危険にさらされます。それはオスグマとの遭遇です。 オスは、子連れのメスをみつけると子どもを食い殺そうとします。 メスは、子育ての間発情しないからです。
オスが親子に近づいていきます。ところが、その前を通り過ぎました。実は、親子の向こうに若いオスがいたのです。 まず、オス同志でメスを争うつもりです。互いに攻撃のチャンスをうかがいうます。
闘いが始まりました。シッポのところに色が付いているのが若いオスです。若いオスは倒され不利な闘いをしいられています。 この隙に、先ほどの親子は逃げ出すことができました。ここで、若いオスの鋭い牙が相手の左顔面をえぐりました。 この一撃で一機に形勢は逆転。相手のクマは戦意喪失です。すごすごと退散していきました。
もともとスバルバル諸島では、2000頭ほどのクマが、九州と四国を合わせたほどの広い範囲に生息していました。 そのため、以前はこうした闘いもほとんどみられませんでした。しかし、氷が少なくなったことでクマが集まり、 その行動に大きな影響が現れているのです。
春先に氷が少ないことは、クマの親子にとって深刻な事態です。 本来であれば、この時期、母グマは母乳を出すために沢山のエサを捕らなければなりません。 私たちは、氷の上でエサを捜す親子の姿をあちこちで目撃しました。 ところが、氷が少ないためアザラシを捕れません。 この氷の状態は、母グマにとって子どもに十分な母乳を与えられないことに直結する異常事態なのです。
いったい島に何が起きているのでしょうか。 ノルウェー極地研究所のキット・コバックス博士は、毎年アザラシの生態を調査しています。 博士は調査を行っているキングズ湾でも、2年続けて春先に氷が溶けてしまいました。 例年5月下旬まで、びっしりと氷が張っていました。 氷の上には、沢山のワモンアザラシが暮らしていました。 多いときは数百頭が氷の上で日向ぼっこをしている姿がみられました。 しかし、もはやキングズ湾にはぐしゃぐしゃに溶けた氷しか残っていません。 湾の中には、別の種類のアゴヒゲアザラシがわずかに見られるだけです。 実は、アゴヒゲアザラシは、小さな氷があれば出産できるため、かろうじて生き延びています。 しかし、ワモンアザラシは、この氷の状態では巣が作れず、子育てができなくなっているのです。
ノルウェー極地研究所 キット・コバックス博士
「 ワモンアザラシは、氷の上の雪に穴を堀り、そこで赤ん坊を産みます。その穴が乾燥し、温かいことが大切です。
この水分が赤ん坊にとってよくないのです。しっかりとした氷がないとダメなのです。
去年(2007年)は、島の西海岸でしっかりとした海氷はありませんでした。
この湾でも、ワモンアザラシの子どもが一頭も育たなかったのは、間違いありません。 」
ワモンアザラシが消えた海と、飢えに苦しむホッキョクグマ。地球温暖化による急激な変化が島を襲っているのです。
北極点の異変
氷が少なくなっているのは、スバルバル諸島周辺だけではありません。 島から北に広がる北極海は、そのほとんどが白い氷で覆われてきました。 この広大な北極海の氷にも異変が起きています。 私たちは、その異変を探るため、北極点に向かいました。
重さ30トン近くもあるジョット機が着陸したのは、氷の滑走路です。 ここは、北緯89度にある北極点にいちばん近いテント村、ボルネオキャンプです。 毎年、7月初めからおよそ1ヶ月間だけ設けられる臨時の滞在施設です。 世界中から科学者や観光客が集まり、ここを拠点に活動します。私たちがボルネオキャンプを訪れたのは4月下旬。 太陽が一日中沈まない白夜の季節をむかえてました。村長のビクトルさんが興味深いことを教えてくれました。
ボルネオキャンプテント村 ビクトル・ボヤルスキー村長
「 現在位置は北緯89度4分。北極点から100kmほど離れています。
でも4週間前にこのキャンプを設置した時は、北極点から50kmのところにいたのです。 」
キャンプが刻々とその位置を変えているのは、海に浮かぶ氷の上にあるためです。実は、北極海の氷は常に動いています。 このキャンプのある北極点付近では、グリーンランドとスバルバル諸島の間の海峡に向かって、氷は動いているのです。
北極の海を覆う氷にどんな異変が起きているのでしょうか。私たちはその調査に同行しました。
調査を行うのは、ロシア科学アカデミーのイゴル・ミレニコフ博士です。
ヘリコプターでキャンプからさらに北へ移動します。目指すのは北極点です。
眼下に広がる北極海の氷には、多くのひび割れが目立ちます。ところどころ、黒い海面も覗いていました。
ボルネオキャンプから1時間半。ヘリコプターは北極点に到着しました。
ミレニコフ博士たちは、さっそく調査準備にとりかかります。
北極点といっても特別な目印があるわけではありません。
氷が割れたり、重なり合ってできた独特の風景は、氷が動いていることを示しています。
こうしている間にも足元の氷は、徐々に北極点から外れていきます。
北極点でミレニコフ博士が調べているのは氷の厚さです。特殊なドリルで穴を開けて、氷のサンプルを取り出します。 厚さはわずか70cmしかありません。この冬、凍ったばかりの新しい氷です。 よく見ると氷の下がうっすらと茶色くなっています。 これは、アイスアルジーと呼ばれる植物プランクトンの一種です。 氷が薄いため日光が下まで通過し、アイスアルジーが光合成を行って成長しているのです。
ロシア科学アカデミー イゴル・ミレニコフ博士
「 出来て間もないこの氷は、夏の間に溶けてしまうでしょう。冬まで残る可能性はゼロです。
北極の氷がどんどん薄くなっているのです。 」
以前は、北極海のほとんどは何年もかけて成長した厚い氷で覆われていました。 厚さは平均4メートル。砕氷船でも行く手を阻まれることがありました。 その氷が薄く溶けやすいものに変わってしまったのです。
私たちも北極海の氷の薄さをおもい知ることとなりました。 氷の厚い場所を選んで設置されていたはずの滑走路(氷上滑走路)に亀裂がはいったのです。 村長のビクトルさんが見回っていました。
ボルネオキャンプテント村 ビクトル・ボヤルスキー村長
「 滑走路が割れたのは、今年はもう2度目です。 」
キャンプは早目に閉鎖されることになり、科学者たちの観測も規模縮小を余儀なくされました。
ポイント・オブ・ノーリターン Point of noreturn 臨界点は越えた
氷が少なくなり、アザラシが捕れなくなった島でホッキョクグマは生き延びることができるのでしょうか。 ノルウェー極地研究所では、親子グマの狩の場所や行動範囲が、氷の状態と伴にどう変わるのかを調べています。 ヘリコプターで空からクマを捜索し、麻酔銃で眠らせます。
麻酔で眠っているのは9歳になる母グマです。この冬生まれた小グマを2頭連れています。 子グマは、母親の周りを離れようとしません。 調査にあたっているノルウェー極地研究所 ヨン・オース博士です。 頭の大きさを測り、年齢や体重などを記録、栄養状態を知るために皮下脂肪も採取します。 最後に、クマの首に追跡用発信機を付けます。 発信機からの信号でクマの行動が分かるのです。 この年、全部で9頭のメスグマに発信機が付けられました。
ノルウェー極地研究所 ヨン・オース博士
「 この発信機でクマの行動について多くのことがつかめます。
例えば、海氷の上でアザラシを食べているのか、陸地で空腹を抱えじっとしているのか、などが分かります。 」
スバスバル諸島は、これから氷が消える夏をむかえます。 子グマが無事成長できるかどうかは、氷がなくなるまでに母親がどれだけのエサを捕れるかにかかっています。 海の氷が親子の運命を握っているのです。
しかし、この年の北極は異常な夏をむかえていました。
海洋研究開発機構の菊池隆博士は、その異常な夏を現地で身をもって体験しました。
菊池博士は、2007年9月、北極海を観測のため訪れていました。
私たちの取材から4ヶ月後の北極点付近です。
この日、菊池博士は、船から離れ氷に降りて観測をおこなうためにヘリコプターで飛び立ちました。
ところが、行けども行けども厚い氷がありません。
この海域は、私たちが訪れたボルネオキャンプとほぼ同じ緯度。
例年なら厚い氷に閉ざされているはずです。
菊池博士は、着陸地点を捜して飛び回らなければなりませんでした。
菊池博士が氷の上に着陸できたのは、およそ1時間後。
ようやく海水温などの調査を行うことができました。
菊池博士は目の当たりにした北極の異常な夏は、人工衛星からのデータにも現れています。 9月24日、北極海の氷の面積が観測史上最小を記録したのです。 1980年に比べ、6割にまで減ってしまいました。
なぜ氷が急激に減ったのか。
その異変を解き明かす手がかりがスバルバル諸島の沖合いフラム海峡にありました。
ノルウェー極地研究所などの科学者たちは、観測船に乗り込み、
フラム海峡で海峡調査さどを行っています。
フラム海峡は、北極海の氷が大西洋に流れ出る出口となっています。
彼らの調査によると、この年、流れ出る氷の量が2年前より3割も増えていたのです。
菊池博士は、観測結果を総合し、北極の氷が減った原因のひとつは、風が氷を動かしたためではないか、と考えています。
2007年の春、シベリア、アラスカの広い範囲で氷が溶け、海面が覗きました。
そこでは、海水が蒸発し、上昇気流によって低気圧が、氷の上には高気圧が生まれます。
その間を、強風がフラム海峡に向かって吹きました。
この風は、もともとの氷の流れを加速し、大量の氷が北極海から出て行ってしまったのです。
夏、氷がなくなることは、北極海にとって重要な転換点となります。 夏、海面が現れると、海の水は太陽の熱を吸収します。すると、冬になっても氷は十分成長しません。 北極海には、薄く・溶けやすく・動きやすい氷しかなくなり、やがて消えてしまう可能性があるのです。
氷が溶けることが、さらに多くの氷を溶かす。北極の海では、もはや後戻りできない変化が始まろうとしているのです。
異常な氷の減少が続く北極の夏。ホッキョクグマは、無事に生き延びることができたのでしょうか。 2007年9月、私たちは再びスバルバル諸島を訪れました。この夏は、例年より5週間も早く島の周囲から氷がなくなってしまいました。 海岸沿いにはオスグマの姿が何頭も見られました。 まれに、クジラやアザラシの死体が岸に打ち上げられるのを待っているのです。
私たちは、ノルウェー極地研究所のヨン・オース博士と伴に、発信機を付けた9頭のクマをヘリコプターで捜しました。 クマを捜す途中、博士がわずかに残った雪の斜面に小さな白い塊をみつけました。クマが倒れています。 近づいてみると、生まれてから1年も経っていない子グマの死体でした。 体に傷がないことから、飢えで死んだと推定されます。
ノルウェー極地研究所 ヨン・オース博士
「 母親が乳を出せなくなったために子グマを置き去りにしたのかもしれません。
クマにとって、夏は特につらい時期なのです。 」
温暖化が子グマに過酷な運命を与えているのです。私たちはさらに捜索を続けました。 ついに親子グマの姿を捕らえました。この親子がいたのは、海から数キロメートルも離れた内陸でした。 海岸のオスを避けていたのでしょう。もう何週間もほとんど食べ物を口にしていないはずです。 結局この年は、氷のない期間が以前に比べ2ヶ月以上も長くなっていました。 オース博士は、温暖化の進行がホッキョクグマにとって絶滅への最後のひと押しになりかねない、と考えています。
ノルウェー極地研究所 ヨン・オース博士
「 温かくなればなるほど、ホッキョクグマはエサが捕れなくなります。
だからこそ、気候変動が気がかりなのです。
氷のない時期がさらに長くなれば、もっと多くのクマが餓死します。
クマの姿が消える場所もあるでしょう。 」
すぐにでも手を打たなければならない
北極の温暖化は、そこに住む生き物たちを脅かすだけではありません。地球全体の温暖化を加速します。
地球温暖化の予測を行っている海洋研究開発機構の河宮未知生博士です。
河宮博士の研究で、北極周辺の海や陸で雪や氷が溶けると、
100年後の大気中の二酸化炭素濃度が、これまでの予測と大きく変わってくることが分かりました。
グリーンランド沖には、大気中の二酸化炭素を大量に取り込んでいる海域があります。 ここでは、北極の寒さで冷やされ重くなった海水が沈み込み、二酸化炭素を深海に運んでいます。 この映像は、その海流を計算で示したものです。赤い部分が流れの強いところです。
ところが、北極が温暖化すると、この流れが100年後には細くなってしまうことが分かりました。 すると、深海に運ばれる二酸化炭素の量が大幅に減ります。 その結果、大量の二酸化炭素が大気中に残ってしまうのです。さらに、北極周辺の陸地でも変化が起きます。 温暖化により、地表付近の永久凍土が溶け、土壌の中の微生物が活動を始め、大量に二酸化炭素が放出されるのです。 そのため、地球全体の気温をこれまでIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示している公式の予測よりも、 さらに、およそ1℃押し上げると考えられるのです。
海洋研究開発機構 河宮未知生博士
「 将来の二酸化炭素濃度がどのように決まるかといのはですね、
高緯度海域の吸収能力の減少、というのが大きなキーを占めていますので、
北極圏を含めた高緯度地域の変化というのは、非常に大きな役割を果たしている、
というふうに言えると思います。 」
北極の温暖化では、これまで数千年かかったような規模の変化が、 百数十年という短い時間で起こっています。この急激な変化が、さらなる温暖化をもたらす結果となるのです。
私たちは、目の前で発信機を付けた親子グマに再び会うことはできませんでした。 このクマからの信号は、2007年9月末、1箇所で止まったまま動かなくなってしまいました。
飢えに苦しむクマの姿は、決して遠い世界の出来事ではありません。
急激に氷が消える北極は、いままさに臨界点に達し、後には戻れない循環に入ろうとしています。 もし、北極がこれ以上温暖化すれば、近い将来、地球の気候システムが壊れ、 私たち人類に大きなダメージが及ぶかもしれないのです。 環境が激変し、北極で追い詰められる生きものの姿は、私たちの未来の姿ともいえるのです。 それは、すぐにでも手を打たなければならない、という人類への警告なのです。
30th May 2008
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