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- No. 038
北極大変動 氷の海から巨大資源が現れた
2008.06.11
過去数万年にわたって北極を覆ってきた氷が、球温暖化によって消えようとしています。
その異変が、人類の欲望に火をつけました。
2007年8月2日、世界に衝撃をあたえる出来事が起こります。 北緯90度、北極点の海底に、ロシアが潜水艇で国旗を設置したのです。 ロシアの狙いは、北極海の海底に眠る石油と天然ガスです。
北極には、地球上でまだ発見されていない石油と天然ガスの4分の1があると推定されています。 その資源を求めて、北欧 ノルウェーも開発を加速しています。
ノルウェー石油監督局 アーリング・クヴァツヘイム氏
「 北極海を覆っている氷は、石油と天然ガスの開発にとって大きな技術的障害です。
もし、氷が減少するならば、当然そこでの開発は容易になるでしょう。 」
北極での資源開発は、新たな二酸化炭素の排出につながります。
世界自然保護基金 ニール・ハミルトン博士
「 エネルギーを使うほど北極の氷は溶け、石油と天然ガスの開発が進む。すると、また、氷が溶ける。
その皮肉を理解できる状況に直面しています。 」
氷の減少が開発をまねき、さらに温暖化を加速する負の連鎖が始まろうとしているのです。
北緯70度。ノルウェー最北部にある街、ハンメルフェストです。 2006年12月、北極の資源を巡る熾烈な競争がこの小さな街から始まろうとしています。 この街の沖合いで、北極海最初の本格的な海底ガス田開発が進められています。 無人島だった島には、その天然ガスを液化する北極発のLNG(液化天然ガス)プラントが建設中でした。 テロへの警戒から、プラントへの立ち入りは厳しく制限されています。 唯一街と繋がっている海底トンネルを通って島に渡ります。 北極発のLNG(液化天然ガス)プラントを建設していたのは、 ノルウェーの石油企業スタットオイル社です。 総工費は、1兆2400億円。 このプラントで、北極海の海底から掘り出される天然ガスをマイナス163℃に冷やして液体状に加工します。 そして、船でアメリカやヨーロッパに出荷する計画です。
2006年12月21日。プラントの沖合いに1隻のLNG船がやって来ました。 アークティック・プリンセス(ARCTIC PRINCESS)号です。 日本で建造され、北極の厳しい海でも航行できるように特殊な凍結対策が施されています。 この日、プラントをはじめて稼動させるために燃料を運んできたのです。 しかし、問題が発生しました。 悪天候のために入港することが出来ないのです。 この日、数速20メートル近い風が吹きました。 波も高く、船の接岸は不可能です。 この時期、最低気温は氷点下20℃を下回ります。 プラントのパイプを流れる化学薬品も凍りつく恐れがあります。 そこで、つなぎ目を電気ケーブルで温めるなど、さまざまな凍結対策を行っています。 建設費用は、当初の見込みを1500億円近く上回っています。 しかし、生産が始まれば、投資金額はすぐに回収できるといいます。
スタットオイル社 オッド・モスペルグヴィック副社長
「 回収期間は、実際にははるかに短くてすむでしょう。
石油価格が1バレル60ドルとしても投資した金額は4年で回収できます。 」
天然ガスは、プラントの148メートル沖合いにあるスノービットガス田から海底パイプラインで送られてきます。 水深300メートルにある海底ガス田を開発するために、スタットオイル社は最新技術を導入しています。 それが、このサブシーと呼ばれる海底生産装置です。 サブシーは、海底に掘られた井戸の上に設置されます。 噴出してくる天然ガスを遠隔操作で調整してプラントまで送ります。 海底に設置されるため、北極の氷の影響を受けません。 スタットオイル社は、この海底生産装置によって世界で初めて北極海の沖合いにあるガス田を開発できたのです。
北極初のLNGプラントには、世界60カ国から3000人を超える労働者が集まっています。 建設が進むプラントでパイプラインの管理をしているビョン・クリストファーセンさんです。 2004年、ノルウェー南部の街から移り住んできました。 ビョンさんは、間もなく出産を控えた妻クリスティーヌさんと2人暮らしです。 クリスティーヌさんは、ハンメルフェストの出身です。 海底ガス田の開発が始まったため、両親の暮らす故郷に戻ってきました。
ビョン・クリストファーセンさん
「 天然ガスは25年から30年分あるといわれています。
これから開発が進めば天然ガスも石油ももっと採れるでしょう。
生まれてくる子どもはこの街で就職できると思います。 」
開発により人口は増加し、街の経済に大きな影響をあたえています。 スーパーやレストランが次々と開店。 住宅を捜し求める人も増え続けています。 しかし、物件は不足しており不動産価格はこの5年で3倍に急騰しています。 天然ガスの生産で地元に毎年65億円近い経済波及効果があると資産されています。
2007年1月2日、いよいよ北極初のLNGプラントが稼動を始めます。 建設開始から5年、北極初のLNGプラントに火が点りました。 10月からは、北極海の天然ガスの出荷が世界に向けて始まっています。
スタットオイル社 オッド・モスペルグヴィック副社長
我々は、北極の深い海でも掘削できることを証明しました。
さらに資源の探査を進め、より深く、より西へ、より北へ、バレンツ海のロシア側にも進出する予定です。 」
開発を加速する地球温暖化
莫大な利益を生む北極海での資源開発。 その開発を加速しているのが、地球温暖化です。 これまで開発を阻んできた厚い氷が、温暖化によって急激に減少しているからです。 ノルウェー極地研究所は、北極海の氷の状況を記録した資料を世界中から収集しています。 資料はおよそ6000点。 北極探検に乗り出した航海日誌などです。 日誌には、氷の厚さや分布が詳細に記録されています。 その記録を元にノルウェー極地研究所は、海氷地図を再現しています。
これは、1866年4月の氷の分布です。 バレンツ海の大部分が氷で覆われていました。
こちらは、2007年4月。 バレンツ海を覆っていた氷は、ほとんど消えています。
氷の分布は、この140年で、およそ250km北上しています。
ノルウェー極地研究所 ヴィクトリア・ライトル博士
「 バレンツ海を覆っていた氷は、1800年代から特に夏の間減少しています。それはデータからも明らかです。
またこの10年間は、氷の減少が加速しています。 」
2007年7月。氷の減少が急速に進むバレンツ海です。 ノルウェーは新たな資源を求めて調査を進めています。 その重要な役割を担うのが日本製の掘削リグ、ポーラー・パイオニアです。 ポーラー・パイオニアは、北極海は航海して資源を探しています。 地下深くにある石油や天然ガスの埋蔵量を確かめるために、 井戸を掘る必要があります。 そのため、ポーラー・パイオニアは、船底についた4個のスキュリューで位置を保ち、 北極海の荒波の中で掘削を行っています。 掘削作業を行うやぐらは、ステンレス鋼で覆われており、真冬でも作業を行うことが可能です。 気温が氷点下20℃まで下がっても室内は暖房で快適です。 この日、掘削リグでは井戸に観測機器を入れ、石油の埋蔵量を詳しく調べていました。 技術者たちは、この掘削リグに宿泊し24時間体制で石油や天然ガスを探し求めています。
氷の減少が加速したこの20年。 バレンツ海では60箇所以上で掘削調査が行われています。 巨大な油田やガス田を発見するために、ポーラー・パイオニアは北上を続けているのです。
北極、バレンツ海で加速する氷の減少。 それを絶好の機会ととらえる国がもう一つあります。 ノルウェーの隣国、ロシアです。 北極開発のガス田、スノービットガス田よりもさらに北。 シュトックマンガス田の開発をロシアは目指しているのです。 開発を担うのは、天然ガスの生産量で世界最大を誇る巨大企業、ガスプロムです。 ヨーロッパ各国が消費するガスの3割近くをガスプロム1社が供給しています。 このガスプロムがバレンツ海の大陸棚開発に初めて乗り出しているのです。 シュトックマンガス田には、天然ガスが海底下2000メートル付近に4層にもわたって存在しています。 ガスプロムは、天然ガスの成分や埋蔵量を調査データを元に三次元の立体映像で詳しく再現しています。 埋蔵量は3兆8千億立方メートル。 日本の天然ガス消費量の45年分に匹敵する世界最大級のガス田です。 ガスプロムは、このデータを駆使して埋蔵されている天然ガスのほとんどを捕り尽す計画です。
2007年夏、北極海を覆っていた氷は縮小し、観測史上最小を記録しました。 ロシアの大陸棚を覆っていた氷はほとんど消えました。 ガスプロムは、シュトックマンガス田の他にもこの大陸棚には十数兆立方メートルにも及ぶ天然がガス、 そして、大量の石油が存在すると見込んでいます。
地球温暖化によって氷が減少し、開発には有利な状況が生まれています。 しかし、一方で巨大氷山の来襲という皮肉な事態にガスプロムは直面しています。 莫大な資源が眠る大陸棚には、ノバヤゼムリャ島があります。 この島には、合わせて2700キロメートルに及ぶ氷河が存在しています。 この氷河から、温暖化の影響で巨大な氷山が次々と流れ出し、 ガス田開発の大きな障害になろうとしています。 海上に浮かぶ掘削リグが氷山と衝突し、沈没する危険が生まれているのです。 ガスプロムは、この氷山対策をロシア北極南極研究所のズバーキン博士に依頼しました。
ズバーキン博士は、衛星を使った氷山の監視システムをつくりました。 掘削期間中は、専門の研究者が24時間体制で氷山の監視を行います。 氷山を発見すると、すぐに現場の掘削リグに危険を伝えます。 さらに、巨大な氷山をロープで引っ張り、方向を変えるテストを繰り返し行っています。 すでに20万トンの氷山を移動することに成功。 ロシアは、あらゆる手段を尽くして北極海の開発を推し進めています。
大陸棚での開発を加速させるロシア。 さらに多くの資源を求めて北極海を北上しようとしています。 ロシアが狙っているのは、北極点付近の海域です。 この海底にも膨大な石油や天然ガスが埋蔵されていると考えられています。 しかし、北極点付近は、どの国も開発権を持たない公海です。 北極周辺の国は、沿岸から200海里までしか開発する権利をもっていません。
2007年、ロシアは、北極海の資源の探査を始めました。 海底の地質調査を行ったのです。 調査対象は、北極海の海底にロシアからグリーンランドまでおよそ1800キロメートルにわたって連なるロモノーソフ海嶺です。 このロモノーソフ海嶺が、ロシアの大陸棚とつながっているかどうか、 研究チームの焦点はここに絞られていました。 この海嶺が大陸棚とつながっていることを証明し、国連が認めれば、ロシアは開発する権利を沿岸から350海里に延長できます。 新たに120万平方キロメートル、日本の3倍以上の面積の開発権を得るのです。
さらにロシアは、この海底調査の最後に、思い切った行動に出ます。 2007年8月2日、ロシアは、海氷が薄くなった夏に、船で北極点に到達しました。 そして、潜水艇で推進4261メートルの海底に潜り国旗を設置する、 というパフォーマンスを行ったのです。
このロシアのパフォーマンスに対して北極海に面するカナダやデンマークは、激しく反発しています。
北極に埋蔵されている天然資源。 それは、地球上で未発見の天然資源の4分の1にのぼると推定されています。 ロシアは、その海底に眠る資源を開発するため、着々と準備を進めているのです。
地球温暖化によって拡大する北極での資源開発。 エネルギーを追い求める人類の欲望は、さらなる開発につながる新技術を生み出しています。 ロシアが、世界第2位の造船会社サムスン重工業に依頼しているのは、 砕氷タンカー カピタン・ゴツキー(KAPITAN GOTSKY)号の開発です。 全長257メートルです。厚さ1.7メートルの海氷を割って前後に進むことが可能な世界初の砕氷タンカーです。 北極の厚い氷をスムーズに割って進むことができるように、船首をナイフの刃のような鋭い形にデザインしました。 通常の砕氷船は、氷の上に乗り上げて船の重みで氷を割って進みます。 しかし、衝撃が大きく、原油の輸送には向きません。 そこで揺れを抑えるために、氷を切り裂くことが出来る鋭い船首を設計したのです。 その結果、厚さ1.7メートルの海氷を割りながら航行することが可能になりました。 船砕氷能力をさらに高めるために、向きを自由に変えられる特殊なスクリューも採用しました。 冬の北極海で、厚い氷や氷山に行く手をさえぎられても、このスクリューを逆向きにすることで、 強い水力で後進して抜け出すことが可能になります。 この砕氷タンカーを使えば、一年を通して北極から原油を運び出すことができるのです。 北極海を航行できる砕氷タンカーの価格は、通常の3倍。 しかし、2011年までに、この造船所では、23隻の受注を見込んでいます。
地球温暖化による海氷の縮小。 そして、立ち止まることのない技術革新。 北極の海底で眠り続けた資源が、世界へ送り出されようとしています。
北緯70度。北極初のLNGプラントを建設したノルウェー。 北極海の海底から、世界最先端の技術を駆使して天然ガスを生産し、 世界に供給し始めています。 このノルウェーでも、北極の開発をさらに進めるための次の一手が打たれました。 ノルウェー第1位の石油会社スタットオイル社と第2位のハイドロ社が合併したのです。 スタットオイルハイドロ(StatoilHydro)社。 海底油田からの原油生産では、世界最大の企業の誕生です。
合併直後、スタットオイルハイドロ社は国際会議(北極開発に関する国際会議)を主催しました。 会議のテーマは、「北極海での資源開発」です。 世界44カ国から企業が集まり、北極海の海底から石油や天然ガスを生産するための最先端技術が展示されました。 すでに、水深3千メートルを超える北極の深海からも石油や天然ガスを 掘り出すことが技術的には可能になっているのです。
新生スタットオイルハイドロ社の初代CEOに就任した、 ヘルゲ・ルンド氏です。集まった企業に革新的な技術開発の必要性を訴えました。
スタットオイルハイドロ社 ヘルゲ・ルンドCEO
「 こうしている今も、わたしたち石油業界全体は、深海、より沖合いの海域、
そして、北極に立ち向かっています。
こうした挑戦を可能にする最高の武器は技術です。
有名な起業家の言葉にあるように、
『成功の秘訣は、早起きをして、懸命に努力をし、そして、石油をみつけること』にあります。 」
さらにノルウェーは、2007年、海底資源の開発技術を教える専門の学校を設立しました。
50人の若者が学んでいます。
3年間の授業料は無料。
ノルウェーは、北極の開発を推し進める人材の育成に乗り出しているのです。
【 学生の感想 】
- エキサイティングだし、楽しそう。
- ノルウェーでは、北極の氷の下にある海底資源の開発は、今後20年、最もホットな分野になるでしょう。 その時期が、自分のキャリアのピークとピッタリ合うと思います。
これまで、厳しい自然環境に守られ聖域だった北極。 そこでの開発が、地球温暖化をきっかけに、怒涛の勢いで進みつつあるのです。
拡大を続ける北極での資源開発は、多きリスクをはらんでいます。 温暖化が開発を招き、さらなる温暖化を進めるという負の連鎖が加速するという恐れがあるのです。 2007年11月、国際エネルギー機関は、世界のエネルギー需要に関する予測を発表しました。(世界エネルギー展望) 地球温暖化による深刻な影響が危惧されているにもかかわらず、 世界のエネルギー需要は、2030年までに55%増加します。 しかも、その需要の8割は、これまで通り化石燃料でまかなわれます。 この結果、二酸化炭素の排出量も57%増加すると予測されているのです。
高まるエネルギー需要によって原油価格は高騰を続けており、 スタットオイルハイドロ社は、2007年には、2兆7千億円もの営業利益を記録しています。 スタットオイルハイドロ社は、この利益の源である資源開発と温暖化対策を両立できないか、と考えています。 その技術開発のリーダーを務めるのは、CO2対策マネージャー オーラフ・コールスタッド氏です。 オーラフ氏は、化石燃料に依存する社会をすぐに変えるのは難しいと考えています。 そこで、化石燃料を使いながら二酸化炭素を削減する方法の開発に取り組んできました。
北海にあるスライプナーガス田。年間27億立方メートルの天然ガスを生産しています。 1996年、オーラフ氏は、このスライプナーガス田で世界で初めての試みをはじめました。 実は、ここで掘り出される天然ガスには、9%もの二酸化炭素が含まれています。 この二酸化炭素を海上で分離して回収することにしたのです。
スタットオイルハイドロ社 CO2対策マネージャー オーラフ・コールスタッド氏
「 これは、二酸化炭素を回収するタンクです。
二酸化炭素は、アミンという化学薬品をつかって天然ガスから回収します。 」
掘り出した天然ガスはタンクに送られ、アミンという薬品が加えられます。 すると、天然ガスに含まれている二酸化炭素だけを取り出すことができます。 オーラフ氏は、この回収した二酸化炭素を再びパイプラインで地下1000メートルの地層に送り、封じ込めることを考えたのです。
スタットオイルハイドロ社 CO2対策マネージャー オーラフ・コールスタッド氏
「 地下1000メートル付近には、柔らかい砂の層があり、手で握りつぶせるほどです。
そこには、二酸化炭素を封じ込めるのに十分な隙間が存在します。 」
地中に送られる二酸化炭素の量は、年間100万トン。 ノルウェーの年間排出量のおよそ2%に相当します。 この地層の上には、キャップロックとよばれる堅い地層があり、 漏れ出す可能性は低い、と考えられています。
地中の二酸化炭素の状態は、定期的に調べられています。 これは、地下にある二酸化炭素を色で示した図です。 この対策が始まってから12年、すでに1千万トン以上の二酸化炭素を封じ込めることに成功しています。
この技術は、IPCC(地球変動に関する政府間パネル)も有効な温暖化対策のひとつとして認めています。
北極初のLNGプラント(ハンメルフェスト、ノルウェー)でも、 二酸化炭素の地中への封じ込めがはじまりました。 ノルウェーは、この技術を火力発電所に応用したり、 排出権取引などを活用し、2030年までに、二酸化炭素の排出量をゼロにする数値目標を掲げています。 温暖化対策として世界的に注目を集める技術ですが、スタットオイルハイドロ社は、 もうひとつの可能性にも期待しています。 オーラフ氏は、この技術を活用してさらに石油を掘り出そうと考えているのです。
生産量が減り枯渇のはじまった油田に回収した二酸化炭素を封じ込めると、石油が流れやすくなります。 すると、これまで取り出すことが出来なかった石油を押し出して、回収することができるのです。
スタットオイルハイドロ社 CO2対策マネージャー オーラフ・コールスタッド氏
「 私たちは、二酸化炭素を石油の生産量が衰えた古い油田に封じ込め、
石油の増産につなげようと数年来努力してきました。
将来的には、かなりのビッグビジネスになるでしょう。
石油増産というメリットがあれば、この封じ込め技術はもっと普及するでしょう。
そうなれば、将来の温暖化を緩和するのに役立ちます。 」
温暖化対策の技術を石油の増産と結びつける石油企業。高まる世界の需要が、その後押しをし続けているのです。
世界保護基金のニール・ハミルトン博士は、化石燃料の大量消費に依存した社会を変えない限り地球の気候は悪化し、 人類は大きなダメージを受けると警告しています。
世界自然保護基金 ニール・ハミルトン博士
「 天然ガスの開発は、もっと進むでしょう。それは間違いありません。
北極海は、大きな利益を生むからです。
世界はかつてない状況に直面しています。
これほどまでに、二酸化炭素が大気中に存在したことはありません。
これは、人類に大きな問題を引き起こしつつあります。
人類は、二酸化炭素の排出量を抜本的に減らす必要があります。 」
北極の氷が観測史上最小を記録した2007年。 スタットオイルハイドロ社は、新しい掘削リグの建設に踏み切りました。 開発名は、アルファ(ALFA)。 全長120メートル。世界最大の掘削リグのひとつで、 北極海で、海面下1万メートルの掘削が可能です。 完成すると、この掘削リグには正式の名前が付けられます。
北緯78度。 ホッキョクグマの王国、スピッツベルゲン島です。 新型の掘削リグには、この島の名前が付けられたのです。 現在ノルウェーは、環境への配慮から島周辺の海での資源開発を禁止しています。 しかし、ノルウェー石油監督局は、島周辺の海に莫大な石油や天然ガスが埋蔵されていると確信しています。
ホッキョクグマの王国、スピッツベルゲンの名前が付けられた高性能の掘削リグ。 北極海での新たな開発を推し進めようとする石油企業の強い意思が現れているのです。
北極海の資源を求めて北上を続ける石油企業。 その活動は、私たちが暮らす日本とも無関係ではありません。 神奈川県横浜市にある東京ガスの扇島工場の地下タンクです。 首都圏に暮らす1千万世帯に都市ガスを供給しています。
2008年3月。ここにノルウェーが北極海で生産した液化天然ガスが運ばれてきました。 日本が、北極海の天然ガスを購入するのは初めてのことです。 氷の下で眠り続けてきた資源は、すでに、私たちの暮らしを支え始めているのです。
新しい掘削リグにその名前が付けられたノルウェーのスピッツベルゲン島。 2007年夏。この島周辺の海から氷は消えました。 開発には絶好の条件が整っています。 わずかに残った雪の斜面には、餓死したホッキョクグマの姿がありました。
このまま温暖化が進み氷が消えると、生態系は大きな打撃を受けます。 そして、地球の気候システムも崩壊の危機にさらされます。 その一方で、氷の減少を利用して私たち人類は化石燃料に依存した豊かな暮らしを、 これまで通り続けようとしています。
地球温暖化という危機でさえも、欲望達成の手段にしようとする人類。 北極の大変動は、私たちのそんな底知れない欲望をさらけだそうとしています。
11 June 2008
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