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【社会】

医師不足に処方せん? 投薬など講座開設 『看護師診療』注目

2009年6月18日 朝刊

NP養成コースの授業を受ける看護師=東京都港区で

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 医師不足の解決策として、看護師が初期診療や薬を処方する「ナース・プラクティショナー(NP)」が、医療関係者の間で注目を集めている。海外で普及している看護師資格で、日本では導入されていないが、深刻な医師不足に悩む産科や小児科の医療現場に望む声が目立つ。将来の導入を期待してNP資格の養成講座を開く大学も出てきた半面、反対論は多い。 (砂本紅年)

 国際医療福祉大大学院(東京都港区)は今年四月からNP養成コースを開設。全国から集まった経験五年以上のベテラン看護師十一人が受講する。コースを修了しても医療現場で診察や薬の処方はできないが、現場で役立つ知識を身に付けたいとの思いから、全員週二、三回の講義に出席。講座を担当する湯沢八江教授は「みんな意欲的」と話す。

 大阪から夜行バスで八時間かけて通学する中山法子さん(42)は、大阪市の病院で「糖尿病認定看護師」として患者の健康指導に当たる。薬の調整は医師の指示が必要だが、実際には医師に提案することが多い。「もしNP制度ができれば、これまでやってきたことが認められることにもなる」と期待する。

 NP資格は米国や英国、カナダ、オーストラリアなどで導入。米国では看護師が大学院で専門教育を受け、試験に合格すれば初期症状の診療や投薬ができる。

 日本では医師法で医師にしか認められていない行為に踏み込むため、公的資格にはなっておらず、そのため勤務経験などの規定もない。

 NP導入論議が活発になったのは、日野原重明・聖路加国際病院理事長が今年三月、政府の有識者会合で、看護師の医療行為を提案したのがきっかけとなった。看護師の役割を拡大すれば、医師不足を補えるからだ。

 日本外科学会、日本胸部外科学会も「外科医の労働環境改善になる」と導入に賛成。東京女子医大心臓血管外科の西田博医師は「術後管理などに活躍してもらいたい。前向きな人に多様な職種を用意することにもなる」と効果を指摘する。

 大学のNP養成コースは昨春、大分県立看護科学大が国内で初めて開設。聖路加看護大(東京)も設置を検討するなど、独自の動きが広がりつつある。

◆『責任の所在不明』 医師会反発

 日本ではNP賛成論はまだ少数派。主に初期診療を担う開業医の集まりである日本医師会は「責任の所在を明確にしないまま、医師不足に名を借りて役割分担だけを先行すべきでない」(中川俊男常任理事)と強く反対する。

 日本看護協会も「専門看護師や認定看護師が既にNPのような仕事をしている。まずは議論を整理したい」と慎重な姿勢。看護師の中にも「看護学と医学は別もの」という意識が強く、医師の肩代わりのようなイメージのNPに抵抗感は多い。

 東京大医科学研究所で看護ケアを研究している児玉有子特任研究員は「看護師のキャリアの道筋が広がることに異論はないが、医師不足対策にするのはおかしい。今でも医師の指示で看護師が動いている部分はあり、拙速に導入すると、経験豊かな看護師の仕事を制限する恐れがある」と指摘する。

 <認定看護師と専門看護師> 日本看護協会が認定する資格。「認定」は半年間の研修を終了し、特定分野の専門知識と技術を持つ。全国に5800人。「専門」は大学院の修士課程を修了し、指導や研究などにも当たる。全国で300人。

 

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