シックハウス症候群や化学物質過敏症治療の先駆けとして知られる北里研究所病院(東京都港区)の医師、宮田幹夫さん(73)=北里大名誉教授=が17日、東京・荻窪で専門外来「そよ風クリニック」を開業する。化学物質過敏症の成人患者は推計約70万人。しかし、専門外来がある国内9病院のうち、都内2病院は今年になって休診・縮小しており、宮田さんは「病院数が減っても患者は減っていない。体力の限り続ける」と話している。
化学物質を著しく少ない状態にした専門外来の診察室「クリーンルーム」を99年に設けた北里研究所病院は、今年3月から一般診察室での診療に切り替えた。東京労災病院(東京都大田区)も1月から新患受け入れを中止。東日本で重症患者が診察を受けられる施設はほとんどなくなった。設備維持費の負担が大きい割に、問診や検査で診察時間がかかり採算が合わないことや、原因が複合的で対応できる医師が少ないことが背景にある。
宮田さんは、マンションの一室を改造したクリニックに化学物質が極力出ない壁や床、空気清浄機をつけた「準クリーンルーム」を用意。微量の化学物質にも反応し体調を崩す患者の診察には不可欠との信念からだ。
北里研究所病院の勤務も続け、クリニックでの診察は1日8人まで。健康保険の適用はなく、1回1万5000円前後と安くはない。しかし、問い合わせは関東だけでなく大阪、宮崎、北海道などからある。泊まりがけの患者にも配慮し、月末の土日も開く。家賃や人件費などで採算はギリギリだ。NPO法人「化学物質過敏症支援センター」(横浜市)によると、化学物質過敏症の相談件数は08年度約1450件で5年前の6割増という。広田しのぶ事務局長は「予約が半年待ちの病院もある。期待している患者は多い」と話す。【宍戸護、田村佳子】
毎日新聞 2009年6月9日 東京夕刊