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2009-06-08

飯塚事件の問題は、決してDNA鑑定だけではないだろうと思います

足利事件の菅家利和さんが釈放された日以来、弊ブログに「久間三千年」「久間死刑囚」「冤罪」などの検索ワードでご訪問してくださる方が増えています。

具体的には、久間さんが死刑執行されてしまった昨年10月に書いたhttp://d.hatena.ne.jp/ken-kataoka/20081029/1225270744というエントリに検索でたどり着いてくださる方が多いようです。

また、

足利事件と同じDNA鑑定、92年の飯塚事件も再審請求へ魚拓

と報じられてからも、やはり多くの方に弊ブログにご訪問頂きました。

飯塚事件の久間さんについては、実は足利事件の菅家さん同様の「DNA鑑定が決め手になった冤罪」だったのでは……ということで世間の関心を集めているようですが、私個人としては最近、一審の判決文(「判例タイムズ2001年7月15日号掲載)などを読んでみたところ、DNA鑑定以外の部分にも気になるところがありますので、それを書いておきたいと思います。

それは「動機」に関することです。

というのも、一審からの弁護人である岩田務弁護士は、「季刊刑事弁護」2001年秋号(NO.27)の対談の中で、

「この犯罪は明らかに小児性愛者でサディスト傾向のある人による犯罪と考えられるのですが、被告人のところを徹底的に捜索しても、その関係の証拠は何も出てきていない。これもおかしな話ではないかという気がしています」(同誌61ページ)

と述べておられます。

実際、一審の判決文をみても、ともに小学1年生の女の子である2人の被害者の「死体解剖の結果」の概略をみる限り、それは、犯人が「小児性愛者でサディスト傾向のある人」であることを如実に示しているように思える内容です(死体解剖の結果については、引用することを控えますので、関心がある方は「判例タイムズ」その他でご確認ください)。

にも関わらず、一審判決をみる限り、久間さんが、そのような人物であったと示すような証拠が法廷で俎上にのせられた形跡がまるで見受けられません。

上の岩田弁護士のご発言は、控訴審が結審した時期になされたものですから、控訴審でも、そのような証拠は何も出てこなかったということだと思います。

そこで、一審判決が動機について、どういうことを言っているかをみてみますと、小学1年生の女の子2人に対し、久間さんが「性倒錯的行動」に走った理由が一応、次のように説明されています。

被告人は、平成三年一○月ころから、糖尿病による亀頭包皮炎のため、妻との性交渉が思い通りに行えない欲求不満を持っていた可能性が高く、そのような状況で、情性の欠如した被告人が性倒錯的行動をとる可能性は十分考えられる(前掲「判例タイムズ」294ページ)。

しかし、これには、あまり説得力がないように思われます。

妻との性交渉が思い通りに行えなくて欲求不満を持っていようが、特定の趣味を持つ人でもない限り、小学1年生の女の子2人に対し、性倒錯的行動をとってしまうということは通常ありえないように思います(そもそも、亀頭包皮炎については久間さんは公判において、事件発生の約3ヶ月前にあたる平成3年11月末ころには完全によくなっていた旨を証言しているようです)し、実際、末尾の「可能性は十分考えられる」という言い方からは、裁判官自身の自信の無さがうかがえるような気もします。

さらに言えば、裁判官はその前段でも「欲求不満を持っていた可能性が高く」と「可能性」という言葉を使っていますから、推測に推測を重ねる無理な事実認定をしてしまっているような印象も受けますね。

また、一審判決は「量刑の理由」のところでも、動機について、

本件犯行のうち、被害児童を略取または誘拐して殺害に及んだ直接の動機は、被告人が否認し犯行の具体的な態様が明らかでないことから不明と言わざるを得ないが、被告人が被害児童やその家族に対して恨みを持っていたような事情はうかがわれず、他方、被告人が亀頭包皮炎に罹患していたこと、死体の陰部には手指を挿入した痕跡があることからすると、本件当時、被告人が、少なくとも自己の性欲を満たさんがために、汚れを知らない少女を陵辱し、自己の獣欲を満足させようとした事実は否定できないところであって、そこからは被告人の抑制力の欠如と性倒錯傾向がうかがわれるのみならず、再犯の可能性も否定できない。(「判例タイムズ2001年7月15日号・297ページ)

などと言及しています。

つまり、「2人の被害者を殺害した犯人」と「2人の被害者を略取、または誘拐し、陵辱した犯人」が別人であることは到底考えにくいということを大前提として、被告人が2人の被害者を略取、または誘拐してから陵辱した動機さえわかれば、殺害に及んだ動機はわからなくても、被告人をこの事件の犯人と認めてしまって問題ない───と、裁判官たちは考えたのではないかと思います。

しかし、前記したように、久間さんが、特定の性的趣味を持つ人物であったと示すような証拠は何も見つかっていないのですから、久間さんが小学1年生の女の子2人に対し、「汚れを知らない少女を陵辱し、自己の獣欲を満足させよう」という凶行に走った動機も十分に解明されているとは、私には到底思いがたいところです

控訴審判決文は見つけられず、目を通せていないのですが、一審の判決文の中にだけでも気になるところは他にも色々ありますし、前掲「刑事弁護」における岩田弁護士の他のご発言などを見ると、この裁判には、判決文には現れていないような問題もかなり多くあったようです。

結局、この飯塚事件裁判というのは、裁判官DNA鑑定の結果に引きずられ、その他の部分の事実認定で無理に無理を重ねた上で有罪認定してしまったのではないかという疑念を感じずにはいられませんね。

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ゆうこゆうこ 2009/06/16 23:01  初めまして。説得力有る文面で、深く頷きながら拝読しました。カレー事件和歌山地裁と同様、飯塚事件裁判官も余ほど自信がない様子が窺われますね。
 それよりも、足利事件再審決定で最初に脳裏に浮かびましたのは、やはりカレー事件です。死刑ですし、これは、どげんかせんといかん、です。が、難しいことですね。

ken-kataokaken-kataoka 2009/06/17 16:41 ■ゆうこさん

はじめまして。
過分なお褒め、どうもありがとうございますm(_ _)m

飯塚事件は控訴審判決は見ていないのですが、たしかに一審判決は自信の無さそうな印象を受けますね。
裁判官は自信はないけれども、DNA鑑定でクロと出ていたので、有罪とせざるをえなかったのでは…という気がしています。

カレー事件については、再審無罪より、まずは死刑執行の阻止、というのが現実的な目標になってくると思います。
そのためには、「この事件で死刑を執行したらマズイのでは」という世論の盛り上がりが欠かせないと思いますので、今後もカレー事件にご関心を持って頂ければ幸いです。
今後とも、どうかよろしくお願い致します。

ゲスト


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