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社説:景気底打ち 家計に安心来ていない

 政府が6月の月例経済報告で基調判断から景気の「悪化」の言葉を削った。7カ月ぶりのことだ。生産が下げ止まりから持ち直しに転じ、輸出にも持ち直しの動きが出てきていることが最大の根拠だ。景気動向指数も先行きを示す先行指数、足元を示す一致指数ともに、4月には前月比で上昇している。

 さらに、バブル崩壊後、日経平均株価が最安値まで下げた株価も、一時、1万円台を回復、先行き期待感が次第に高まっている。

 しかし、そうしたことに浮かれているような状況だろうか。

 今年1~3月期の実質成長率は1次速報段階の前期比・年率15・2%下落が、2次速報では14・2%下落に縮小し、4~6月期にはプラス成長の予測が強まっていることは事実だ。企業業績も日銀短観では今年度後半には回復も見込めそうだ。株価は米国での金融不安の後退に加えて、そうした楽観的材料を根拠に上昇している。

 景気の先行きを見通す時には、前兆を見逃さないことが重要だ。同時に、幅広い指標を予断を入れることなく分析し、評価することを忘れてはならない。そこで、何よりも気がかりなのは、家計部門に漂っている先行き不安感である。

 02年2月からの景気拡大も、家計段階ではほとんど実感されなかった。輸出に依存した企業部門の好況が景気を引っ張り、家計への波及がほとんどみられなかったからだ。それでも、08年はじめまでは成長を支えてきた。しかし、昨年4~6月期以降、足を引っ張る格好になっている。その幅は期を追うごとに拡大している。

 完全失業率の上昇や有効求人倍率の低下など雇用環境の一段の悪化や国内総生産(GDP)統計でみた雇用者報酬の減少がある限り、家計のマインド回復は期待できない。

 生産や輸出などの指標からは、最悪期は脱したとみられないこともない。ただ、その確証は月例経済報告も示していない。内閣府が底打ちの兆候はみえるとはいえ、今後の内外状況によっては二番底がないとはいえないと、持ち直しにまで踏み込んでいないのは正しい。

 日本銀行の「大幅に悪化した後、下げ止まりつつある」という景況判断も、先行き不安材料が少なくないことを根拠にしている。その意味では、景気判断はどれだけ前向きの指標が続くのかと、家計関連で明るい動きがいつ表れてくるかが焦点だ。

 麻生太郎首相も100年に1度の経済危機と何度も言ってきた。それがたった半年余りで、回復といえるわけはない。家計が安心できない経済社会の転換がカギだ。

毎日新聞 2009年6月18日 東京朝刊

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