<2003年9月25日 朝刊 26面>
長寿の島の岐路(115)
特別養護老人ホーム「与勝の里」は今年四月、倉庫を改装したメーク室「ちゅらさぬ屋」をオープンした。毎週金曜日の午前中は、メークの順番を待つお年寄りの列ができる。長浜君子施設長は「八十年刻まれたしわがなくなるわけでなはい。でもお年寄りにとって高価な贈り物より、鏡の中の奇麗になった自分と向き合う方がうれしいことが分かった」と話す。
メーク室誕生のきっかけは、毎日畑仕事をしているというお年寄りが近所の美容室で美顔マッサージを受ける姿を見たこと。それも「常連さん」だと聞いた。「最初は、今さら美顔という年齢でもないだろうにと思った」と長浜さん。しかし自分もマッサージしてみると「気持ちいいし、奇麗になったという高揚感を味わえた」と振り返る。
メークの効果
ボランティアでメークを担当する仲尾勝江さんはベテランの化粧品販売員。あるとき、お年寄りに「まゆを整えてほしい」と言われ驚いたという。「まゆは顔の印象を決める最も大切な要素だが、若い女性でも気付いていない人は多いのに」。メークを通して見えたお年寄りの意外な姿に驚きを隠さない。「化粧をされて喜ぶという受け身の姿勢だけでなく、お年寄り一人ひとりに『こんなふうにおしゃれをしたい』という欲求があった」
那覇市の特別養護老人ホーム「大名」は約十年前から、お年寄りがモデルのファッションショーを実施し、高齢者の「装い」に取り組む。ショーの衣装はすべてボランティアや職員の手作り。玉城篤子副所長は「衣装デザインの段階では関心を示さなかった痴ほうのお年寄りも、仮縫いとなり実際に服を着てもらうと、とたんに表情が生き生きしだした」と振り返る。
軽度の痴ほうがある男性入所者(79)はショーでモデルを務めたスーツを今でも外出のたびに着る。カーキ色のスーツは左前身ごろと袖の部分にあい色のかすり模様が入って帽子とセットになっている。この日は外出日ではなかったが、職員に促されてスーツを着ると、不思議なことにそれまであった左手の震えが止まり、背筋が伸びた。
「着る側」考え
「食事を削ってでもきちんとした身なりでいなさい、というのが母の口癖だった」。浦添市に住む島袋光紀さんの母・信子さん(94)は昨年九月、右大腿部を骨折したことがきっかけでほぼ寝たきりになった。今年六月から自宅で光紀さんが介護する。
介護を始めるにあたり介護服を購入したが、すぐに後悔した。「着る側でなく、着せる側のことを考えて作られた服だった。脱いだり着けたりしやすいようにあちこちにファスナーがあり、ごわごわして着心地が悪い。見た目も良くない」
東京で約二十年間スタイリストとして働いた経験を持つ光紀さんは代わりにワンピースをオーダーした。「筋力の衰えで胸板が薄くなり腰周りが大きく見える母の体形を補い、デザインが良く、しかも着やすい服は既製品では見つからなかった」。スカイブルーの花柄のワンピースは、ベッドから車いすに移動したり長時間座った姿勢でもしわにならない生地で作った。おそろいのストールはデザインはもちろん、冷房の効いた部屋での防寒にも役立つ。
「年齢や寝たきりという理由でおしゃれを制限するところに、今の日本社会が持つ老人観が現れている」と島袋さん。「年を取ったからこそ、自分らしいおしゃれを」と提案する。(「長寿」取材班)
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光紀さんがオーダーしたワンピースを着て、車いすで外出した母・信子さん=那覇市・サンエー那覇メインプレイス
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