7月12日に行われる東京都議会議員選挙は、総選挙の前哨戦として位置づけられ、大きな注目を集めている。確かに、総選挙前に行われる大型選挙の東京都議選でその行方を占おうとする考え方は分からなくもない。実際に、今年行われた千葉県知事選挙、秋田県知事選挙、名古屋市長選挙や千葉市長選挙でもそのように扱う傾向があったのは事実である。しかし、もう一度考え直してみると、東京都議選は、都民の代表者となる議員を選ぶ選挙であり、総選挙の前哨戦というだけではいささか寂しい気もする。
では、都議会とは実際にどのような仕事をしているのだろうか。一般に、地方議会の役割とは、首長をトップとする執行部の仕事をチェックするとともに、条例などの形で政策を提案することである。都民の多数派の意見を重視しながら都政を運営していく都知事と都内各地域の意見が反映された場である都議会とが車の両輪となって、東京都という車を走らせていくのだ。そう考えると、6兆円もの公金を扱う執行部と対等にわたりあっていくためには、それなりの人数(定数127人)が必要であり、議員間での役割分担も重要だ。
実際には、一人一人の議員が何をしているかはなかなか分かりにくい。人数が多いということもその一因であるが、選挙の仕組みが有権者にフレンドリーなものになっていないことも大きい。東京都議選の選挙制度は、中選挙区制(原則として、1選挙区から複数の候補者が当選する仕組み)となっている。したがって、衆議院選や知事選と異なり、政党間の政策の違いだけで争われるのではない。たとえば、大田区選挙区では、定数8人のところに、すでに14人が立候補を表明しているが、その内訳は、自民党から3人、民主党から4人、公明党、共産党から各2人、社民党から1人、無所属が2人となっている。有権者は、この11人から1人に自分の票を投じることになるが、自民党に期待したい場合には、3人の中から誰か1人に決めなければならず、政党というラベルだけで選べる仕組みとはなっていないのである。
また、選挙の仕組みだけでなく、選挙の仕方も有権者にフレンドリーなものになっていない。地方議会の選挙では、テレビの政見放送はなく、国政選挙や首長選挙のように選挙公約集やマニフェストを配布することができない。したがって、7月3日の告示になると、政党や候補者の政策を知らせる手段は、候補者個人が演説してまわるぐらいしかないのである。また、今はやりのITを活用しようと思っても、HPは更新できないし、メールも配信できない。以上のように、多くの有権者が政策中心の選挙を期待していても、そもそもそうした選挙ができるインフラが整っていないのが現状である。
こうした問題意識から、(社)東京青年会議所、早稲田大学マニフェスト研究所、日本インターネット新聞社の3者が協力し、東京都議会の現状を有権者に分かりやすく知ってもらう企画をたてた。まず、6月24日(水)に、東京都議会会派代表者による東京都政フォーラムを開催する。ここでは、現在の東京都政をどのようにとらえているのか、東京都の未来像は何かなどについて各会派の意見を聞くことによって、考え方の違いを明らかにしたい。さらに、このフォーラムに加えて、個々人がこうした点についてどう考えているのかについてもネット上で動画を配信していきたい。
日 時:2009年6月24日 18:00〜20:30
場 所:早稲田大学小野記念講堂(早稲田キャンパス)
共 催:社団法人東京青年会議所
早稲田大学大学院公共経営研究所
早稲田大学マニフェスト研究所
参加者:東京都議会5会派 代表
東京都議会自由民主党
都議会民主党
都議会公明党
日本共産党東京都議会議員団
都議会生活者ネットワーク
(以上保有議席数順)
コーディネーター:北川 正恭(早稲田大学大学院公共経営研究科教授)
東京都議選では、石原都政に対する評価や、残りの任期に都議会としてどう対応していくのかということなどが問われるだろう。もちろん、それだけではない。派遣切りや中小企業の問題、高齢者対策など、市区町村だけでは対応できない喫緊の課題もある。こうした問題に、東京都と市区町村がどのように連携して対処していくのか、そこにどう都民の声を反映していくのかなど問われるべき点は多々ある。総選挙の前哨戦という盛り上げ方だけでなく、都民のための東京都議選が実現するかどうかは、有権者の選択にもかかっているのである。
早稲田大学マニフェスト研究所次席研究員 林紀行
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