次期衆院選の期限が刻々と迫る中で、麻生太郎首相に一段と厳しい風が吹き付けた。共同通信社の全国緊急電話世論調査で、麻生内閣の支持率は17・5%と5月の前回調査を8・7ポイント下回り、再び政権の危機的状況とされる10%台に入った。不支持率は70・6%に及ぶ。
調査は13、14両日に実施された。支持しない理由で最も多かったのは「首相に指導力がない」で23・0%と、前回を10ポイント近くも上回った。次いで「経済政策に期待が持てない」「首相が信頼できない」などの順となっている。
民主党の鳩山由紀夫代表とどちらが首相にふさわしいかでは、鳩山氏が50・4%と麻生首相の21・5%を圧した。麻生首相の頼みの綱ともいえる自民党支持層や若者の「麻生離れ」が進んだ。政党支持率でも自民党は19・8%(前回25・2%)と電話世論調査を始めた宮沢内閣以来、野党時代を除いて最低を記録。民主党の38・5%(同30・0%)に水をあけられた。
「かんぽの宿」の売却問題などと絡み、日本郵政の西川善文社長の続投に強く反対した鳩山邦夫前総務相を事実上更迭した麻生首相の判断については、74・8%が「評価しない」。西川氏の進退では「辞任するべきだ」が75・5%に及ぶなど不満の声が示された。
麻生内閣に対する今回の不支持の要因は直接的には鳩山氏の更迭劇だが、これまでの首相の対応のもたつきや指導力不足などで積み重なった国民の懸念の表れともいえよう。
一度は西松建設巨額献金事件に伴う民主党の小沢一郎前代表の公設秘書の逮捕、起訴などで上向いた内閣支持率だったが、5月に民主党代表が鳩山氏になるや再び低下。今回、国会の会期延長で2009年度予算や補正予算の景気浮揚効果で得点を挙げながら解散へ進む戦略だったが冷水を浴びた形だ。
民主党も、優位な立場はあくまでも敵失によるものだけに安閑としてはいられない。今月19日には西松建設の事件で初公判が開かれるなど、いつ状況が逆転するか分からないだけに、引き締めに懸命だ。
それにしても、与野党の状況は政策で支持をつかむ攻防にはほど遠い。相手のミスで浮き沈みする「失点合戦」の繰り返しだ。衆院選は本格的な政権選択がかかる重要な場となる。各党は、それにふさわしく、国や国民生活の具体的な姿を競うマニフェスト(政権公約)をしっかり示さなければならない。
社会保障や財政など国の基本政策について中長期的な観点から話し合う政府の「安心社会実現会議」が報告書をまとめた。
若者や現役世代への支援拡充を柱に、2035年に「便益の実感を伴った持続可能な安心社会」の構築を目指すとした。麻生太郎首相は09年の「骨太の方針」に反映させるほか、一部は自民党の衆院選マニフェストに盛り込む考えだ。
会議は4月、麻生首相が掲げる「中福祉中負担」の将来ビジョンを描く目的で設置された。
報告書は、「安心社会」実現に必要な改革として雇用、子育て、教育、医療、年金・介護の5分野を挙げ、特に経済成長に直結する雇用を軸に給付割合を増やすことで、若者から高齢者まで「切れ目のない安心保障」を構築する重要性を強調した。
その上で、高齢化人口がピークを迎える20年代初頭までに出生率の「確実な上昇反転」実現が不可欠と指摘。11年度までに実施すべき緊急施策として、給付付き税額控除、非正規労働者への社会保険適用拡大など10項目を挙げた。少子化対策や現役世代への制度充実に視点を当てたのは評価できるが、既存政策の焼き直しが目立ち、新たな国家像はイメージしにくい。
小泉構造改革については「改革が活力を支える安心までを掘り崩す結果になってはならない」とし、「高機能な政府」への向上が必要と指摘した。
問題は財源の確保だ。報告書は「消費税を含む税制抜本改革への行程を示す必要がある」と明記し、党派を超えた円卓会議の設置も提言した。しかし、消費税率引き上げの時期や規模など具体論には踏み込まず、尻切れとんぼに終わった感は否めない。政治に判断を委ねた格好で、安心社会実現の道筋はなお不透明と言わざるを得まい。
(2009年6月17日掲載)