ガス田開発合意1年 中国、奇妙な停滞 建国60年ピリピリ
■日本に主導権、外務省「快適」
日中両国が東シナ海のガス田開発問題で合意して18日で丸1年。だが、肝心の条約締結交渉はほとんど進展していない。中国製ギョーザ中毒事件や日中歴史共同研究など他の懸案も同じで、今年10月、建国60年を迎える中国側が国内で波紋を呼ぶ問題を「凍結」し、先送りしていることが主な理由だ。何も動かず、日本側のいらだちは募るが、外交当局は「現状は日本にとって実は快適」(日中外交筋)との意外な本音を漏らす。
中曽根弘文外相「(ガス田問題は)早期に交渉を再開する必要がある」
楊潔●・中国外相「事務レベルの接触を引き続き維持していきたい」
今月7日の日中外相会談。この問題を取り上げた中曽根氏に楊氏は気のない返事をした。4月の麻生太郎首相と温家宝首相との会談でも同様だった。
日中両国は昨年6月の合意で、中国側が境界線として認めていない日中中間線を事実上基準に据え、(1)天然ガス田「翌檜(あすなろ)」付近海域で対等条件で共同開発を実施する(2)中国が単独開発を進めていた「白樺(しらかば)」には日本が出資し、比率に応じて権益を受け取る−などを約束した。
ところが、これに中国世論が「対日譲歩」「弱腰外交」と反発。中国側は「当初は『8月の北京五輪までは動けない』と言っていた」(外務省筋)が、その後ずるずると引き延ばしして、白樺への日本の出資率なども決まっていない。
さらに今年は「何も問題を起こすまいと神経質になっている」(日中外交筋)。ガス田交渉はその割を食った形に見えるが、外務省幹部は「焦っているのは中国側だ」と指摘する。
「交渉が動かない間は、中国側はそれまで時間とカネをかけて開発し、採掘寸前の白樺で採掘できない。日本はもともと開発していなかったから実害はない」
◆◇◆
進展がみられないのは、事件発生から1年5カ月が経過する中国製ギョーザ中毒事件のほかにも、報告書提出の予定が昨年7月から昨年末に延び、さらに今春へ先送りされ、まだ実現していない日中歴史共同研究などがある。
中国は今年5月には、中国の領有権を主張して尖閣諸島へと向かおうとした香港の活動家らの出港を差し止めており、とにかく波風立たないようにと必死だ。
それもこれも、下手に日中間で火の粉を起こせば、瞬く間に国内のナショナリズムが燃え上がり、容易に反政府運動へと転化しかねないとの危惧(きぐ)を持っているからだ。中国政府が、国民の鬱屈(うっくつ)した不平不満を重大視している表れだろう。
ただ、この事態は日本外務省にとっては悪いことばかりではない。日中外交筋は「首脳会談などで日本が外交を優位に進めやすい雰囲気がある」と明かす。
「従来の日中外交では、中国側が『友好に反する政治家発言があった』などと日本側に弁明を求める強気な場面が多かったが、ガス田問題やギョーザ問題は逆。『あの件はまだ進展しないのか』と日本側がただす側になったのは大きい」
諸懸案が早期解決するに越したことはないが、一連の「停滞」の陰で、現場の外交官たちは「留飲を下げている」部分もあるようだ。(阿比留瑠比)
●=簾の广を厂に、兼を虎に
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