街を歩けばコンビニエンスストアが目に入る。豊富な品がいつでも買えて便利だが、商品に割高感があった。最近PB(プライベートブランド)によるおにぎりなどの安値販売でそのイメージも変わりつつある。ただ、陳列食品の廃棄を避けるために値引きするスーパーのような「見切り販売」は立ち遅れている。その最大手のセブン-イレブン・ジャパンに対し、公正取引委員会が排除措置命令を出す方針だ。理由は、加盟店の見切り販売を不当に制限したという独占禁止法違反である。
商品を店が自由に見切り販売できなければ当然売れ残りが増え、捨てざるをえない。実際まだ食べられる食品が大量のごみになっているのだ。
その「廃棄の仕組み」が公取調査で広く知られ、最近は加盟店の判断で見切り販売がしやすくなってきた。その意義は大きい。
不満の声はかなり前からあった。「コンビニは食べ物を捨てすぎ」。こう憤っていたのは環境活動家ではなく、当のコンビニ加盟店主だった。
大きなエビフライの載った弁当、卵入りサンドイッチ……。コンビニのバックヤードは、プラスチック製の黄色いカゴの中に食べられる売れ残り商品が山積みになり、1日1回業者が回収していた。ある店では、仕入れた弁当やおにぎりの平均1割強を廃棄していた。立地や地域により事情は異なるだろうが「量はいつもカゴに山盛り三~四つ分」とも聞いた。
コンビニ店は主にフランチャイズで運営され「本部の指導で値引きしにくい」と店主は言う。また、棚が商品でいっぱいだと売れやすいので、本部の指導員は強気の発注を求めてくる。「月間売上高の2%以上」などと、廃棄量の目標を店に示していたコンビニ本部さえあったほどだ。
神奈川県のある元加盟店主は「値引きをしたら何度も警告文を送られてきた」と話した。「どんどん買わされ、値引きもできずに捨てさせられる」と自店ではないかのように嘆く店主もいた。「極端な値引きで廃棄逃れをしたら警告文を送ることもある」(セブン-イレブン・ジャパン広報)というのが現実だった。
コンビニが見切り販売より廃棄を選んできた背景の一つに、同系列、他系列店との値引き競争は避けたいという販売戦略がある。だが、公取は加盟店の値引きを制限する理由としてこれを認めないとみられ、「そうしたいのなら(フランチャイズではなく)本部の直営にすべきだ」と判断しているようだ。
また、本部が損しないコンビニ特有の会計システムがある。ほとんどの大手コンビニ本部は、店で売れた商品の「粗利」に定率をかけたロイヤルティーを得て利益を上げている。商品を捨てると、加盟店は本部にロイヤルティーを払ったうえで、廃棄商品の原価を負担しなければならない。廃棄すればするほど店の負担になってしまうが、廃棄しようがしまいが本部のロイヤルティー収入は変わらない。
コンビニは1974年に登場してから、ライフスタイルの変化に乗って利益を上げてきた。一方で、コンビニ間の拡大競争があり、立地、競合、売り上げによっては苦境にあえぐ加盟店も出てきた。
その仕組みに疑問を持った一部の加盟店主は8年前から何度も公取に足を運んできた。3年前に同行した際、公取の担当者は店主の話を黙って聞いていた。公取の見方は分からなかったが、別の機会に担当者が「個人的には問題があると思い、コンビニで買い物をしない」と話していたことをいま思い出している。
国レベルでも、農水省が食品廃棄を減らすためにガイドラインづくりをしている。食品ロスの発生量を調べ、業界ごとに廃棄の削減目標を立てるよう求めていくという。コンビニに弁当などを納めている中堅メーカー幹部は「コンビニもこれまでのような商売をしていたら、環境面の批判にもたないだろう」と言う。
大手コンビニは長年増収増益を達成してきた。小さなスペースに常に売れ筋商品をそろえ、文字通り便利(コンビニエンス)な店として消費者に支持されてきた。今回、公取調査でその構造やシステムが明らかになり、ごみ減量化や食のモラルからも、利益構造を含めて現状を見直さざるをえない時流になってきた。
業界も変化している。見切り販売が広がり、消費期限前に捨てていた弁当などを家畜飼料としてリサイクルする試みも始まっている。社会のエコ意識の高まりとともに、食品を捨てないための業界の模索が続いている。
コンビニはPOS(販売時点情報管理)システムなど画期的な商品管理や社会ニーズに沿った変革によって成長してきた。食品廃棄を減らし、環境保護と利益を同時に達成するさらなる変革を業界に期待したい。
毎日新聞 2009年6月17日 0時09分