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社説:「安心会議」報告 「不安」に応えていない

 3人に1人が非正規雇用労働者、年収200万円以下のワーキングプア(働く貧困層)が1000万人、年金、医療、介護など社会保障に対する将来不安の拡大など、暮らしの安心が揺らいでいる。政治は処方せんを書くことができず、「消えた年金」問題などによって行政への信頼も低下している。

 こうした足元の現実をみると、政府の「安心社会実現会議」がまとめた報告書は、国民が感じている不安や痛みに直接応えたものになっていない。「安心」をどう実現するのか? 中福祉中負担の中身と財源は? 消費税を上げるのか?など国民が知りたいことが書かれていない。

 国がめざす道筋を示すという大きなテーマを与えられたが、実質2カ月しか時間がなく、議論が生煮えとなった。総じて言えば、切れ味を欠いた報告書と言わざるをえない。

 衆院選を控え、小泉純一郎元首相の改革路線を総括し消費税引き上げ問題で民主党との主張の違いを出したかったのだろうが、与党内から反発もあり具体論が書き込めず、訴える力の弱い報告になってしまった。

 社会保障について、今後の議論につながる提言を一つ挙げるとすれば、消費税の社会保障目的税化だろう。国の一般歳出を社会保障とその他に区分けし、消費税収入をすべて社会保障費に充てる「社会保障勘定」の導入を提言した。

 これは国のかたちを大きく変える政策である。各政党は考え方をマニフェストに書き込んで、国民の声を聞くべきテーマだ。

 報告では、働くことが報われる「日本型安心社会」を目指し、雇用に力点を置いたという。しかし、提言の中身は十分ではない。11年度までの3年間に取り組む「10の緊急施策」の中では「非正規労働者への社会保険、労働保険の適用拡大など非正規雇用の処遇改善」が盛り込まれたが、これだけでは働く人たちの「安心」を実現できない。同一労働・同一賃金の導入や最低賃金の引き上げ、「使い捨て」にされてきた派遣労働の見直しなど、抜本的な改革案は見送られた。昨年秋以降の不況で、突然解雇された非正規労働者は、この中身では到底、納得しないだろう。

 なぜ、「安心」を議論する必要があるのか。それは社会に「不安」がまん延し、閉塞(へいそく)感が広がっているからだ。

 「安心社会実現」には誰も異論はない。むしろ、大いに議論をし早急に詳細な詰めの作業に入るべきだ。そのためには、衆院選を経た強い基盤の政権の下でしっかりと検討し、消費税の社会保障目的税化や非正規労働者の処遇改善なども含めた課題について結論を出すことが必要だ。

毎日新聞 2009年6月17日 東京朝刊

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