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平成の大合併―現実を見据え次に進もう

 「平成の大合併」と呼ばれた市町村の合併推進運動が、ひと区切りを迎えることになった。

 99年3月から来年3月までに、日本の市町村の数は3232から1760へと半分近くに減る。歴史を振り返れば、1888(明治21)年に町村は7万以上もあった。それが明治、昭和、平成の大合併を経て、約40分の1に再編されることになる。

 10年余りの運動をへて、とりあえず考えられる市町村合併の組み合わせはおおむね試された観がある。税財政の優遇措置という「アメ」をぶら下げて進めた政府主導のやり方も、そろそろ限界だ。こんな情勢を受け、首相の諮問機関の地方制度調査会がきのう、来年3月末でひとまず幕を下ろすべきだと麻生首相に答申した。

 過疎や高齢化が進む中、合併による合理化で財政を立て直さなければ、小さな自治体は立ちゆかなくなる。政府が市町村に合併を促したのは、こんな理由からだ。

 調査会の答申は、行政の規模が大きくなったり、保健や福祉など専門職員が置けるようになったりして、分権の受け皿としての体制が整備されつつあると、合併の効果を認めた。

 弊害もある。合併時の特例で認められた借金で新しい街づくりを進めた結果、財政は借金返済の重荷を抱えてしまった。身近で面倒見のよかった役場が、遠くてよそよそしい市役所に変わってしまった。

 この4月の「ミニ統一地方選」で、現職市長が落選した17市はいずれも合併市だったのは、そうした住民の不満の表れだろう。総務省幹部は「全体としては、合併はよくなかったという声の方が若干多い」と認める。

 こんな現実を考えれば、ここで立ち止まって冷静に検証してみようというのは妥当な判断だ。

 ただ、間近に迫った総選挙で、主要政党は「自治体再編」を主張の柱に据えようとしている。自民党は、道州制を導入し、市町村を人口10万から30万規模の700〜1千の基礎自治体に再編することを検討している。

 民主党は小沢前代表の時代に、市町村を700〜800程度に集約し、将来的には300程度の基礎自治体にする案をまとめた。代表交代でこの案は再検討されそうだが、いずれにせよ、さらなる大合併が想定されている。

 道州制や自治体の大胆な再編は、改革イメージをアピールするには格好のテーマだ。中央集権を打ち破り、分権社会に造りかえる政策論争は歓迎だ。

 しかし、派手な改革を競うあまりに、より極端な合併を想定するとすれば本末転倒だ。数字ありきの再編論でなく、住民が主役となれる自治体の姿をどう具体化するか。合併に伴う現実を踏まえた政策論議をしてほしい。

安心の実現―道筋見えねば託せない

 子育て世帯やワーキングプアの若者をはじめ、若い世代の支援にもっと力を入れよう。政府の安心社会実現会議がそんな提言をまとめた。

 緊急に取り組む課題として、低所得の人の税金を安くし、場合によっては給付金を出す▽生活支援と組み合わせた職業訓練▽貸し付けに加えて給付型の奨学金制度を増やす――など10項目を挙げている。

 これまでにも社会保障国民会議が、今の安全網にほころびが生じているとして、社会保障の強化を求めていた。今回はさらに進めて、制度を立て直すだけでなく、高齢者重視だった給付のありようを転換するというのだ。

 政府は、近くまとめる経済財政改革の基本方針「骨太の方針09」に、これらを反映させる予定だ。来る総選挙で「安心社会の実現」を看板政策に、という思惑もあるに違いない。

 深刻化する格差・貧困や少子化問題に、政府が本腰で乗り出すのは当然だ。むしろ遅すぎたくらいである。だが大問題がある。実現の道筋が全く見えないことだ。

 政府が昨年末に決めた税制と社会保障の「中期プログラム」に盛り込まれた医療や年金の機能強化だけでも、15年までに消費税率3.3〜3.5%の引き上げが必要とされる。今回、緊急課題に挙がったものを含めると、かなりの財源が要ることになる。

 立派なメニューだけを並べられても、値段が分からないのでは、有権者は注文のしようがない。

 経済危機対策や税収の落ち込みで、国の借金は膨らんだ。先に内閣府が示した試算では、財政健全化の目標を先送りしても将来、消費税率を7%程度引き上げることが必要だという。

 しかも、この試算は高齢化に伴う社会保障費の伸びを当面抑制することが前提だ。増税分の大半が財政赤字の穴埋めに使われ、「安心の実現」は後回しになってしまうのではないか、と疑念を抱く人も少なくないだろう。

 麻生首相が国民に信を問うなら、社会保障の充実にどれだけの費用が必要なのか、国民にお願いする負担増はいくらで、何に使うのか、道筋を正直に示すことが不可欠だ。

 政府・与党だけの話ではない。総選挙で政権選択を国民に問おうとしている民主党は、政権をとっても4年間は消費税を増税せず、無駄の削減など歳出の改革で20兆円を生み出して福祉や教育を充実するための財源に充てるとしている。本当にそれが可能なのか。説得力のある説明を求めたい。

 安心して暮らせる社会にするために必要な負担と給付の姿をどう描いているのか。与野党がマニフェストにそれを明示して競い合ってこそ、信頼できる政府をつくるための政権選択の選挙になる。

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