私には、本気で殺したいと思うほど憎んでいる相手がいる。もはや赦しの対象と
する余地もない、神にも仇なす極悪人だ。私が以前いた教会で、信者たちをだま
し、神を冒涜し、皆を裏切った元牧師「T」だ。私はTの死を願い何度も神に祈
った。しかしTは今も生きている。もちろん連絡は取っていないので詳しいこと
はわからないが(T自身か、Tに近い人物はこのホームページを見ているはずだ
)、今も以前と同じ家でのうのうと市民生活を送っている。Tに深く傷つけられ
た多数の被害者は報われないままだ。なぜ神はTにさばきを下して殺してくださ
らないのか。
聖書に、当然復讐を受け殺されて然るべき極悪人であるにも関わらず、誰も彼を
殺さないよう神によって定められた男が載っている。弟アベルを殺したカインだ
。カインは神に自分の罪がばれたとき、「私に出会う者はだれでも、(アベル弟
の復讐として)私を殺すでしょう。」と恐れた。しかし神は「だれでもカインを
殺す者は七倍の復讐を受ける」と言って、誰もカインを殺すことのないようひと
つのしるしを彼に与えた。(余談であるが、モルモン教では、この「しるし」は
カインの皮膚が黒くなることであり、黒人はカインの血を引いているとの説があ
るらしい。)これで、誰もカインを殺して復讐することができなくなってしまっ
た。なぜなら、カインを殺せば、今度はその者がカインを殺した罪を問われて殺
されてしまうからである。
私がTを殺さないのは、神を、また良心を、また社会を、また法律を恐れている
からである。(もっともこれらの恐れは根はひとつであろう。)Tは直接人を殺
しこそしていないが、「にせ預言者」として神を冒涜し多くの人々を苦しめたと
いう、殺人にも匹敵する罪を犯した男だ。しかしそんな「人間のクズ」であって
も、もし私が彼を殺すなら、私は殺人者として神から、また良心から、また社会
から、また法律からさばかれることとなる。だから私にはTを殺すことはできな
い。「人の血を流す者は、人によって、血を流される。」というのが神の原則な
のだ。
だが、カインはおかげでその後生き、妻をめとって子供たちをもうけ、町を建て
、子孫は産業を興して繁栄した。同時にカイン家の悪も増し、6代目のレメクに至
っては誰もカインを殺せないことを逆手に取り平気で人殺しをするまでになった
のである。Tもまた平気な顔で暮らし続け、増長し、あるルートから糾されたと
きも何ら反省することなく反発していたという。
カインの一族が一掃されたのは、全世界にさばきが下った「ノアの大洪水」の時
だった。Tの滅びもまた、全世界がさばきを受けるイエスの再臨まで待たなけれ
ばならないのだろうか。―――だが、その日は近い。
2008.08.04 川崎貴洋