障害者団体向け郵便制度悪用事件が、厚生労働省局長の逮捕に発展した。現職の厚労省局長の逮捕は初めてである。
大阪の小さな広告代理店から始まった事件は、郵便事業会社(日本郵便)の不適正な業務をあぶり出したのに続いて、障害者福祉の根幹を担う官庁の組織的な関与を問う事態となり、さらに政界を視野に入れた局面に入ったといえよう。
大阪地検特捜部に逮捕された厚生労働省雇用均等・児童家庭局長村木厚子容疑者の容疑は、虚偽有印公文書作成・同行使である。2004年6月当時、社会・援護局障害保健福祉部企画課の部下で係長の上村勉容疑者らと共謀。障害者団体として実体のない「凜(りん)の会」(現・白山会)が郵便料金を不正に免れるために証明書を偽造し、旧日本郵政公社に提出した疑いだ。
障害者団体が定期刊行物を低料金で利用できる低料第3種郵便物制度の承認を受けるためには、厚労省や自治体が「障害者団体」と認めた証明書が必要で、部下だった上村容疑者は、障害者団体の承認に向けた「稟議(りんぎ)書」を偽造したとして逮捕されていた。
村木容疑者は、容疑を全面的に否認しているという。特捜部は、村木容疑者が実際の偽造行為には関与していないが、発行を指示し、上村容疑者が偽造していたことを認識していたとみており、責任は免れないと判断したのだろう。再逮捕された上村容疑者らは容疑を認め、偽造証明書を「局長に渡した」などと証明書発行への村木容疑者の関与を示唆しているという。
「女性キャリアのエース」と呼ばれた局長の逮捕に、厚労省内部には「なぜ偽造する必要があったのか説明がつかない」との疑問の声がある。また「いろいろな要求はあるが、役所には越えてはならない一線がある」という意見もある。いわゆる「口利き」を示唆するものだ。
今回の事件の背後には、政治家の影が見え隠れする。逮捕された「凜の会」の創立者はかつて国会議員の私設秘書であり、厚労省の元障害保健福祉部長は調べに、議員から対応を依頼されたと供述しているという。
上村容疑者も、前任者からの引き継ぎ時に「政治が絡むのでうまく対応して」と忠告されたと供述している。
いわゆる「政治案件」が、事件を生む素地になった可能性はなかったのか。検察当局は全容解明に全力を挙げねばならない。厚労省が徹底した検証に取り組むのはもちろんである。
イラン大統領選で、保守強硬派の現職アハマディネジャド大統領が再選を果たした。
経済政策や外交政策を争点に選挙戦は改革派ムサビ元首相との激戦模様だったが、結果は予想外の大差となった。大統領は原油輸出収入を地方の公共投資にふんだんに使い、金権腐敗攻撃も行った。地方農村部や都市の貧困層には「庶民の味方」と映ったようだ。ただ、ムサビ元首相は開票作業に不正があったと強く主張している。
イランを「悪の枢軸」の一角と敵視した前ブッシュ政権からオバマ政権に代わり、米国は対話路線にかじを切った。アハマディネジャド大統領も路線を転換してもらいたいところだが、大統領は今回の選挙で対外強硬路線が信任されたとして、ウラン濃縮活動の拡大などを続けるというのが大方の見方だ。核問題をめぐる米欧との協議はより困難になろう。
米国は今後、交渉の相手として、重要案件の最終決定権を握る最高指導者ハメネイ師に狙いを定める構えと伝えられる。だが、一方でハメネイ師といえども圧倒的な民意を受けて再選された大統領の路線を無視するのは困難との観測がある。
米政権は、イランとの外交交渉で成果が上がらなければ経済制裁などの「ムチ」を強める考えという。大統領の強硬路線の結果、イランは年率30%近いインフレにあえいでいる。さらにムチが強まれば経済面の苦境が増し、国民の支持が一気に批判に転じる事態も考えられないではない。現状でも大統領の政策にはばらまき批判が根強い。
そのあたりをどう読んで大統領が対外政策のかじをとっていくのか。国際社会は日本を含めて協調路線を働きかけつつ、イランの動向を当面注視していかなければなるまい。
(2009年6月16日掲載)