「なぜ核兵器の愚かさが分からないのか」。北朝鮮がプルトニウムの全量兵器化やウラン濃縮着手を表明した13日、長崎市では8月9日の平和祈念式典の平和宣言文案を検討する起草委員会が開かれていた。委員会後、北朝鮮の発表を知った委員たちは、オバマ米大統領登場後の核兵器廃絶への期待とは裏腹に、緊張が高まる現実に悔しさをにじませた。
この日の起草委員会では、オバマ米大統領や北朝鮮の金正日総書記に被爆地長崎への訪問を呼び掛ける文案が協議された。
起草委員を14年間続けている長崎原爆遺族会顧問の下平作江さん(74)は「たった一発で何10万人もの命を奪う核兵器の愚かさが何で分からないのか。北朝鮮は核兵器を持つことで優位に立てると誤解している。どうにかして被爆の実相を北朝鮮に伝えたいが、その術が無く腹立たしい」と厳しい表情で語った。
一方、北朝鮮を追い込み孤立させることを懸念する意見も出た。
長崎総合科学大准教授の芝野由和さん(59)は「イラク戦争によって北朝鮮に『大量破壊兵器を持たなければ政権を倒される』というメッセージが送られた。北朝鮮を武力攻撃しないことを確約して安心させないことには、核放棄は実現できないんじゃないか」と指摘した。
長崎大熱帯医学研究所教授の溝田勉さん(64)は「金正日総書記の健康状態が思いのほか深刻で焦っているのではないか。米国を直接対話に引き込むまであらゆる外交カードを使ってくるだろう」と分析。「一喜一憂するのは彼らの狙いに乗ることになる。こういうときこそ冷静に行動するべきだ」と語った。
=2009/06/14付 西日本新聞朝刊=