- 2009-06-11 (木)
- 江
先週予告したように、本日発売の週刊新潮のグラビアページ「私のとっておき京都」の1回目が掲載されている。
創業1560(永禄三年)の包丁・料理道具、錦市場の有次さんである。
永禄三年といえば、織田信長が今川義元を奇襲して討ち取った「桶狭間の合戦」の年である。
だからではないのだろうが、店長の武田昇さんと一緒に映っている見開き大の写真に出てくるわたしの顔は、目を剥いていてなんだかおそろしい。
記事はおもろい。
とくに「だんじり」という単語が、本文・プロフィール合わせて4カ所も出てくる。そして「『京都は大阪の親戚みたいなもん。なんで京都ばかりがモテるのか』と嘆く『街場の大阪論』の著者による異色の京都案内は、次号以降も続く」と締めくくられている。
次号は「四富会館」にあるバー「アイヱン」さんで、この店は今年50周年を迎えている。バッキー井上のやってる「百練」やラムのバー「ピニャコラーダ」のある「しのぶ会館」もそうだが、京都の酒場には単なる飲食店の雑居ビルではない「会館文化」というのが確かにある。
次々号は祇園の「橙」さん。祇園花見小路の四条通の門にある「一力亭」の斜め向かいにある。
20年ぐらい前にバッキー井上に連れて行ってもらってから、よく寄させていただいている。
店主はもう70歳を超えた山村文男さんである。週刊文春に書いた「ミシュラン取材お断り騒動」のラストを飾る名コメント
ミシュランもくそもないと思うわ。門川市長もそんなもん迷惑や言うとるやろ。セレブとか六本木ヒルズとかそんなん京都に関係あらへん。京都の店は各店の個性ちゅうもんがぎょうさんあるから放っといたれ。みんな流れ星でええんや
その人である。
バッキー井上と待ち合わせてたのだが、同時ぐらいに店に着く。すでに突き出しで用意されたゴリの佃煮がうまくていきなり日本酒が進む。
「酒ナンボでも飲めますな」と大将に言うと、「ゴリは生きてるのから炊かんとおいしない」とおっしゃって、でかいロックグラスに入れた生きたゴリを見せてくれる。
ハモの汁ものにはナマのじゅんさいが入っていて、これはうまい。刺身も鯛がうまい。
「ほれ見てみ」とグジの一塩を見せてくれる。デカいしピンクがかった色が美しい。開いた状態の腹側はきれいに内臓や血合いが取り去られていて、やはり京都だと思う。
そのグジは塩焼きと骨酒。たまらん。
この店はお茶屋「万イト」の割烹である。佐野眞一著の『阿片王 満州の夜と霧』はA級戦犯・里見甫の満州利権と阿片にからむ怪奇な生涯を描いた会心の長編だが、敗戦後京都に潜伏していた里見が入り浸った、と第八章に書かれた「万イト」の1階部分がこの割烹だ。
山村さんが佐野眞一氏から取材された談話はその225ページで出てくる。
私はその時分まだ子どもでしたが、戦争から敗けてからまもなく、里見さんはうちに入り浸りだった記憶があります。何をしていたかって? そりゃ女ですよ。小柳さんという里見さんお気に入りの芸妓がいましてね。小柳さんと一緒に朝から晩まで……。里見さんっていう人は、酒もやらないし、バカ騒ぎするわけでもない。女と遊んでるか、素性のよくわからん人を呼んで密談みたいなことをしてましたわ。まあ、本当に訳のわからん人やった。(略)食糧難でみんなが苦しんでるときでも、どこで仕入れてきたのか、牛肉をもってきてね、うちのオカン(母親)に渡してた。あの人は何でも手に入れちゃうんです。私らにはよくわからんルートがあったんでしょうな
「万イト」は「一力茶屋」つまり「万亭(一力亭)」の別家であり、暖簾分けである。山村氏に「一」と少しだけ「力」が開いた「万」と書いてあるその「暖簾分けの暖簾」をまた見せてもらう。
同志社大学卒業という板前の経歴を面白がって川端康成もよく来ていたそうで、ノーベル賞を受賞する前の川端が書いた、掛け軸状の書が飾られている。
しかしさすがに日本を代表する老舗出版社・新潮社のみなさんである。店の取材というよりも、うまいものを次々と喰っては飲み、里見甫と川端康成の話ばかり山村さんから聞いている。
いつもそうだが、この店ではうまいものを食べに来ているのか酒を飲みに来ているのか、大将の話を聞きに来ているのか分からない。
そして街的生活愛好者にとって、京都のいい店というのは、必ずこの類の店である。
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