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社説:厚労省局長逮捕 郵便不正の闇なお深く

 厚生労働省の将来の事務次官とも嘱望された村木厚子容疑者(雇用均等・児童家庭局長)はどうしてこんな危ない橋を渡らなければならなかったのか。現在、村木局長は容疑を否認しているという。郵便不正事件はわからないことだらけだ。

 虚偽有印公文書作成・同行使容疑で村木局長は逮捕された。04年6月、「凜(りん)の会」(解散)という団体に福祉活動の実態がないことを認識しながら、障害者団体の証明書を発行したというのが容疑内容だ。上司だった障害保健福祉部長(退職)が国会議員から依頼され、同部企画課長だった村木局長が凜の会に対応、自ら日本郵政公社幹部(当時)に電話し「証明書を出すので、凜の会に割引制度の適用を認めてほしい」と頼んだとされている。

 障害者団体の定期刊行物に適用される低料第3種割引を使えば、120円の郵便物を8円で送ることもできる。大量のダイレクトメール(DM)を扱う業者が差額で暴利を得ていたのが郵便不正だ。割引された分は、一般の郵便代金に広く薄く上乗せされていると考えれば、利用する側の公益性が厳正にチェックされるべきであるのは言うまでもない。

 通常は、各地の障害者団体が「障害者団体定期刊行物協会」に加盟し、同協会が日本郵便と覚書を交わして手続きを代行している。凜の会が加盟を申し込んできたのは04年2月ごろ。協会は、DMの広告掲載量が多過ぎる、福祉団体としての活動の実態が不明確--などを理由に加盟を留保した。凜の会が再び依頼すると、協会は「営利目的の団体ではない」という念書を要求したという。この時点ではチェック機能は有効に働いていたのだ。

 一方、凜の会は直接、厚労省に障害者団体の証明書を求めた。本来、不正がないよう監督する立場の厚労省が便宜を図り、ようやく割引制度を利用できたのである。

 当時は障害者福祉に支援費制度が導入され、サービス利用が急増したため予算不足に陥り、同省障害保健福祉部は穴埋めに奔走していた。その反省で作られた障害者自立支援法は、財源を義務的経費にして財政基盤を固める一方、障害者にも自己負担を求めた。その陰で、障害者団体をかたった郵便不正に手を貸していたとすれば言語道断ではないか。

 村木局長が関与したのであればどんなメリットがあったか。部長が国会議員から依頼されたという背景には何があるのだろう。凜の会から事業継承した「白山会」は08年2月までの1年間で名義使用料として1700万円を得たというが、その使途も分からない。郵便不正の全容を解明すべく徹底した捜査を望みたい。

毎日新聞 2009年6月16日 東京朝刊

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